子役から大人の女優へ、不安と戦い続けた20代、そしてターニングポイント
ー 劇団に入って子役からスタートし、1995年にNHK 連続テレビ小説『春よ、来い』でデビュー、そしてTBS『3年B組金八先生』で金八先生の長女役。今もテレビや舞台にと活躍し、とても順調そうに見えますが、悩んだり、辞めたいとか、そういう心境になったことはありますか?
最初の『金八先生』が終わったあと、14歳くらいで、それまで所属していた児童劇団から芸能事務所に移りました。そこではじめてマネージャーさんに付いていただき、「これは仕事なんだよ」という認識をもらったというか、叩き込まれたというか。楽しいばかりの世界じゃなくて、あなたはやらなきゃならならないことが山ほどあって、できていないこともこんなにあってって、現実をグワっと突きつけられました。
根拠のない自信で女優になれると思っていたものがすべて崩れてしまい、辞めたいと思ったことはありませんが、やっていけるのかなという不安とは、20代はずっと戦っていましたね。
ー できていないことを突きつけられるというのは、たとえばどんなことですか?
わかりやすく言うと、涙を流すシーンで涙が流せないという具体的なものだったり、台本を読みなさいと言われて、自分は読んでいるつもりでも、きちんと読解ができていない、できたとしても、それを表現できていない、求められているものを提供できていない、ということですね。
ー 子役時代とは要求されるものが変わってくるんですね。
それまではセリフを覚えて話せば「よくできたね」だったのが、そうじゃなくなってきますね。
ー 一気に来るんですね。
私の場合はそうですね。ついたマネージャーさんが厳しかったんでしょうね(と横目で)。
ー マネージャーさん、ここにいらっしゃるんですね(笑)。そこから抜け出すのは、どうされたんですか? 何か工夫されたこととか、新たに何かはじめたとか、努力でしか解決できないものですか?
当時は学生ということもあって、自分がやらなければならないことが他にもあるうえで仕事も続けていたからか、自分が変わらなくちゃという思考にはなりませんでした。だから不安の期間が長かったんでしょうね。
でもありがたいことにお仕事はあって、その中でやらせていただいた映画で賞※3 をいただいたのは自分の中ですごく大きかったです。形あるものをはじめていただいて、“あっ、本当に認めてもらったんだ”と。それまでは自分で「女優です」と言うのは気が引けていたんですよ。「私なんて」って。子どもの頃から憧れ続けている職業なので、おいそれとは名乗れなかった。でも賞をいただいたからには、そんなことを言ってる場合じゃない、堂々と言える覚悟を持たないと、と実感したのは大きなターニングポイントになりました。
※3
2005年、映画『さよならみどりちゃん』で映画初主演。第27回ナント三大陸映画祭 主演女優賞を受賞。
テレビ、映画、舞台、その共通点と、それぞれで必要となるスキル
女優を目指す子どもたちが、今、やっておくべきこと
ー 今も舞台に出演していて、6月は「剣豪将軍義輝 〜星を継ぎし者たちへ〜」と舞台が続いていますが、テレビ、映画、舞台、どのような違い、苦労がありますか?
根本的な部分は変わらないですよね。台本があるものを演じる。でもつくり方は違うかなとは感じています。舞台はだいたい1ヵ月くらい練習する時間があって、その中でじっくりじっくり、台本をみんなで読み解いてつくりあげていく、という感じがします。
テレビドラマは出演者それぞれが台本を覚え、考えてきたものを、収録するその日に形として出さなきゃならないという、瞬発力が求められます。
ー それぞれにおもしろさがありますか?
舞台の稽古ではいろいろ挑戦できますが、テレビドラマや映画ではそんな時間はないので、いかに考え、勇気を持って現場で表現するか、というところにかかっているのかな、と思っています。
それに舞台は “カット割”というのを舞台上で自分で表現しなくてはいけません。テレビや映画は編集でやってくれますが、舞台では全身を使って、お客さんに観てもらいたいときは、こうすればお客さんの目を集めることができるという、体の感覚というものが大切かな、と思います。
ー 女優という憧れていた仕事ができて、その魅力はどんなところですか? 思っていたのと違うところはありますか?
子どもの頃からテレビドラマが大好きでよく観ていましたが、人の心を動かすには、すごい準備が必要で、大変な時間があって、ようやく作品ができあがっているんだ、というのは実際に自分がやってみてわかったことですね。
でも台本に書かれた、言ってしまえば嘘の世界を役者さんたちと演じているなかでリアルに感じる、「今、本当に会話したよね!?」みたいな瞬間を感じられるのはとても気持ちよくて、やってて良かったなと思えますし、作品としてずっと残るものに携われることもすごいことだなと思います。
ー 今、小学生くらいの子どもたちが女優さんになるには、何をしておくといいですか?
本を読むのはいいことだと思います。でもただ読むだけじゃなくて、できれば親御さんも読んで、それについて話し合って、その作品を理解するための“読解力”を身につけることがすごく大事だなと思います。
私も「台本をちゃんと読みなさい」ってすごく言われて、「読んでるし」って思っていたんですが、こうやって年齢を重ねて、当時の私と同じくらいの子どもたちを見ると、あ、読んでないのかな、と感じることもあって。だから子どものころから、絵本や物語、小説、それにどういうことが書かれているのか、それに対してどんなふうに思ったか、そしてそれを誰かと共有したり、異なる視点に気が付いたりすることは、とても大切なことなのかなと思います。
今やっている舞台で「想像力を働かせなさい」というセリフがあるんですが、台本や小説の書き手の想像力に加え、読み手の想像力があってこそ、その作品は大作になるんだよって、その通りだなと思います。台本も小説も考えられて書かれているものですが、受け取る側がそれを理解して形にしないと観る人には伝わらないので、書かれていることを理解できる頭を育てていくことは必要ですね。
子育て、そして夫婦円満の秘訣、これからの目標
ー 2010年に「星野真里の地味な生活」というエッセイを出版されています。しかし2011年に結婚、2015年にお子さんが生まれ、生活は様変わりしていると思いますが、ご自身の考えに変化はありますか?
“家が大好き”というのは変わりませんが、昔に比べたら驚くほど外に出るようになりました。そして積極的に何か学べることはないかを探して、行動するようになりましたね。去年は着物の着付けやバイクの免許をとったり、今まで興味はあったけど、行動しなかったことをやりました。ありがたいことに、挑戦や体験したことが何かしら役に立つ仕事をさせてもらっているので、できるときにいろいろな経験をしなくては、と思っています。
ー お子さんが1歳7ヵ月で、星野さんは働くお母さんですよね。働きながら子育てをしていて、時間の使い方など工夫していることはありますか?
私の場合、自分のやりたいことが仕事になっているので、仕事の時間は大変ではありますが、逆に子育てから離れてリフレッシュできる時間です。でも仕事をしていると子どもと一緒にいられなくて申し訳なく感じるので、一緒にいるときは思いっきり楽しもうと、今はとてもバランスのとれている状態かなと思っています。でもこれは私が何か工夫をしているということではなく、まわりの応援があってこそで、本当にありがたいなと思っています。
今は子育てを楽しめていますが、一時期、ちょっとがんばり過ぎていたときは、子どもの可愛さがわからない、なんて状態になってしまったこともありました。でもそのとき、初めて親に甘えることができて、助けてくれる人たちがいることに気が付きました。人ってやっぱりひとりでは生きていけなくて、こうやってみんなで支えあいながら生きていくんだ、それって素敵だなって実感しました。
ー ご夫婦の仲がいいことでも有名ですが、何か秘訣はありますか?
私の家は、そんなに自分の気持ちを伝えあうような家ではなかったんです。親にハグしてもらった記憶も、好きとか大切とか言われた記憶もほとんどないんですけど、主人のご両親は、そういうことをすごく大切にしているんですね。
私の家は大家族だったので食事のときも会話はありましたが、今思うと大切なことは話してなくて、それとって、あれとってとか、そういうことで賑やかな雰囲気になっていたなぁって。だから兄妹のこともあんまり知らないし、自分のことも話したことがありません。主人の家族と話すことで、会話ってこうするんだというのを学び、夫婦でも気持ちを伝えることは大切にしています。
ー 星野さんは大家族のなかで育ちましたが、お子さんに弟妹は考えていますか?
親は言ってきますね。特に父は、弟妹がいないとさみしいよね、みたいに。私としては、いたらいいなぁとは思いますけど、私も主人もこれからも仕事をしていきたいと思っているので、自分たちのライフスタイルを考えると、多くてもふたりかなぁという話をしています。
ー 今後の目標、夢は何ですか?
子どもが私の仕事を認識してくれるようになったときに、“お母さん女優さんなんだ、すごいな”って思ってもらえるような存在でいたい。そう思ったときに、やっぱり私はこの仕事が好きなので、生涯、この仕事をやろうという覚悟を、同時にしたんですよね。だから夢といったら、体が動く限り、お芝居というものに関わっていたいなと、今も地道に一歩一歩進んでいます。
ー お子さんが同じ道を進みたいと言ったらどうしますか?
私も両親に応援してもらったので、反対はできないな、と思っています。ただ「大学まではちゃんと行きなさい」「勉強はしっかりしなさい」という約束で、それをちゃんと守ったので、その条件だけは出そうと思っています。
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インタビュー後記
20代の仕事に対する不安の時期を克服し、コミュニケーションの大切さを知り、子育ての辛さも乗り越え、今、仕事も、家庭も充実している様子で、キラキラしているのがとても印象的でした。好きなことができていること、そして自分を理解し、応援してくれる人がいるということは、力になるんだなと、お話をしていて実感しました。もちろん大変なことはあると思いますが、今の星野さんなら、まるで梅花のように華麗に踊り、楽しみながらクリアしていきそうです。
児童劇団から芸能事務所に入った当時の星野さんの様子や、少しずつ殻を破り成長する星野さんについて、同席していたマネージャーさんにもお話をお伺いしたかったですね。どんな気持ちで、星野さんを見つめていたのか。それこそ、義輝を見守る梅花だったでしょうか。星野さんには、たくさんの大切で頼りになる家族があるんだなと、感じました。
これからのますますのご活躍を楽しみにしています。そして、ぜひまたお話を聞かせてください。
もっと歴史を深く知りたくなるシリーズ
舞台「剣豪将軍義輝 〜星を継ぎし者たちへ〜」
「もっと歴史を深く知りたくなるシリーズ」は、教科書には載らないような歴史上の出来事を興味深くおもしろくエンターテインメントとして表現するシリーズ企画。2014年9月に第1弾企画「マルガリータ〜戦国の天使たち〜」を、2015年10月に第2弾企画「幻の城〜戦国の美しき狂気〜」を上演。
「剣豪将軍義輝」はその第3弾企画となり、初の前後編2部作。前編は2016年12月8日(木)〜12月14日(水)に上演された。戦乱の世を、将軍でありながら無双の剣士として生きた若き足利義輝の爽快な生涯を描いた宮本昌孝氏の長編歴史小説「剣豪将軍義輝」の舞台化。2017年6月8日(木)〜18日(日)まで、EXシアター六本木で上演。
オフィシャルサイト:http://mottorekishi.com
星野真里(ほしの まり)
1981年7月27日生まれ。1995年NHK「春よ、来い」でデビュー。2005年初主演映画「さよならみどりちゃん」で第27回ナント三大陸映画祭で主演女優賞を受賞するなど映像、舞台、CMと多岐にわたり活動中。主な出演作品として上記の他にドラマ「3年B組金八先生」乙女役や、2014年東海テレビ昼帯「シンデレラデート」主演、舞台「リンダリンダ」「幻の城〜戦国の美しき狂気〜」等がある。また2012年から現在まで「セザンヌ化粧品」のイメージキャラクターを務めている。
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