子どもの夢の叶え方

第20回 山口雄大監督(映画「珍遊記」)

この漫画を映画化するとは!? しかも主演は松山ケンイチさん。原作は週刊少年ジャンプで連載していた伝説のギャグ漫画『珍遊記〜太郎とゆかいな仲間たち〜』。子どもに観せたくない映画かもしれないが、山口雄大監督は「子どもに観てほしい!」。さて、その真意は?(インタビュー:2016年2月12日(金) / TEXT:キッズイベント 高木秀明 PHOTO:大久保景)
ページ:
1

2

キッズイベント「子どもの夢の叶え方」第20回 山口雄大監督(映画「珍遊記」)インタビュー

同じように撮ってるのに同じにならなくて、それを解決するのがとにかくおもしろかった。でもだんだん、自分ならこうするって、自我が芽生えてくる

「死霊のはらわた」を観て、僕にも撮れると思った

ー 先ほど「子どもの頃に観た映画がおもしろかった」とおっしゃっていましたが、監督になったのはその影響ですか?

そうですね。子どもの頃に観ていたのはアニメか外国の映画が多くて、なかでもアメリカ映画に対する憧れがすごくありました。特にB級映画が好きでしたね。

もともとは漫画家になりたくて、小学生の頃はずっと漫画を描いていました。だけど自分が想像しているものが描けなかったんです。画力がなかったんですね。こんなイメージがあるのにうまく描けないというジレンマがあって、漫画家にはなれないのかなとあきらめかけていた頃に「死霊のはらわた」っていう映画を観たんです。これはサム・ライミという、今は「スパイダーマン」の監督としても有名ですが、彼が学生時代に撮った映画で、初めてこの映画を観たときに、自分でもつくれそうだなって思ったんです。それで親戚が持っていたビデオカメラを借りて、「死霊のはらわた」のカメラワークを真似て撮影しはじめました。

ー やっぱりすぐに行動するんですね。

最初は真似ですよね。でも同じように撮っているのに同じにならない。なんでだろう? と考えて、レンズが違うんだとか、照明を当てていないからだとか、そういうことに気が付いて、工夫してチャレンジしてみての繰り返し、でもそうなるとおもしろくてハマっちゃったんですよね。で、高校生くらいまで「死霊のはらわた」と同じ絵を撮ろうってやっていました。

でもだんだん、自分だったらこうするのにってオリジナルな要素を入れたくなって、そしてオリジナル作品をつくるようになりましたね。

ー プロを意識したのはどれくらいからでしたか?

よくわからないんですけど、小中学生のときに映像をつくっていて、ずっとこれをやっていきたいなとは思っていましたね。実際にプロを意識したのは高校生くらいですかね。次の進路をどうするんだってなったときに、映画の学校に行きたいって思ったときかもしれないですね。

でも僕は人とコミュニケーションをとるのがとても苦手だったんです。監督って、すごくみんなを引っ張って行くイメージがあって、そういうのにはなれないんじゃないかって思っていました。自分はそういうタイプじゃないって。ただ映画づくりの中で自分は何をやりたいかを考えたとき、カット割りを決めたい、編集したい、音楽をこういうふうにのせたい、それを全部できるのって監督しかいないんですよね。じゃあ、監督になるよりしょうがないかって。

映画学校時代は、徹底的にコミュニケーション能力がなくて自分が思っていることをみんなに伝えることができませんでした。だからそこはちゃんと学ばなきゃと気が付いて、映画学校を卒業した21歳くらいでしたが。

キッズイベント「子どもの夢の叶え方」第20回 山口雄大監督(映画「珍遊記」)インタビュー

マクドナルドでのバイトは、もうひとつ「彼女を見つける」という目的もあったと監督。無事、目的は果たせたそうです

ー 映画に関係する仕事をしながら鍛えたんですか。

いや、マクドナルドでバイトをはじめたんですよ。マクドナルドは、そのときの僕からすると一番遠い存在だったんです。働いている人たちもすごく明るいイメージがあって、みんなスマイルで、とにかく一番自分から遠いこと、苦手に思っていることからやってみようと。

人って第一印象で、この人って話やすいなとか、明るいなと思って、そうすると、そのテンションで接してくれるじゃないですか。だからマクドナルドに入って最初の3日は、すごく明るくしてたんです。話しかけたりして。そうすると向こうがそのテンションで来るから、次からはそれに対応してと、そうしているうちにだんだん話せるようになって、日常会話ができるようになりました。荒療治でしたけど。

ー 30歳で初監督作品をつくっていますが、監督として食べていけるようになるのは、どれくらい時間がかかるのでしょうか?

食べていけるかぁ、ここ2〜3年くらいかなぁ‥‥。まぁ、人それぞれですけどね。

今、テレビ局でつくっているメジャーな映画の監督は、みなさん会社の社員の方なんです。僕のようなフリーの監督だと、監督業だけで食べていくのは実際かなり難しくて、僕はゲームのムービーもつくっています。講師やワークショップなどをしている監督もいますよね。映画監督としての仕事も、自分の撮りたいものしか撮らないというスタンスを貫くのは難しいですね。

ー 今後の目標、夢は?

今までに撮ってきた作品から、ギャグ映画にポリシーのある監督と思われがちなのですが、実はそんなことはなくて、オファーがあれば、何でもではないですが、自分がやれるものならやりたいと思っています。ホラー映画を撮ったこともありますし、次の作品はアクション映画ですし。エンターテインメントとして成立しているものならやりたいですね。三池さん(三池崇史監督)もいろいろなジャンルをやっているじゃないですか。ただ高校生同士のピュアな恋愛とか、ド恋愛ものは気持ちがわからないので無理かな。エンターテインメントとして自分がお客さんに自信を持って提供できると思うものであれば、どんな題材でもやっていきたいですね。

■ 映画「珍遊記」についてはコチラ!

キッズイベント「子どもの夢の叶え方」第20回 山口雄大監督(映画「珍遊記」)インタビュー

「続き」の構想はありますよ。ヒットしたらすぐにでもやりたいと思っています。キャストのみんなも同じ気持ちです。でも今回の「珍遊記」にお客さんが観に来てくれないと、できないんですよね

インタビュー後記

この原作を実写映画化するとは、本当に驚きました。しかし映画は原作よりもかなりソフトになっています。しっかりとしたストーリーがあり、アクションは見応えもあって楽しめました。監督がおっしゃった「全裸=死」というように、なんと男の全裸の多い映画だろうと思いましたが、そんなくだらなさも、男の子にはたまらないでしょうね。もしお子さんがないしょで観に行っても、それは成長のひとつと思い、怒らないで欲しいですね。多少下品ではありますが、これを観てゲラゲラ笑えるって健全な証拠だと思います。あまり言動を真似されると困りますが。

監督は「死霊のはらわた」という映画を観て、これなら自分もできると映画を撮りはじめました。好きなものを見つけたときの子どもの行動力と集中力はすごいですね。そういうものを見つけられるように、子どもにはいろいろな機会を持たせてあげられればと思いましたが、ここまでのめり込めるものを見つけられるって幸せだなと感じました。それでちゃんと食べていければ最高ですよね。

キッズイベント「子どもの夢の叶え方」第20回 山口雄大監督(映画「珍遊記」)インタビュー山口雄大(やまぐち ゆうだい)

1971年生まれ。東京都出身。日本映画学校(現・日本映画大学)卒業。2003年、漫☆画太郎原作のコミック『地獄甲子園』を映画化。ゆうばり国際ファンタスティック映画祭ヤングコンペ部門グランプリを受賞し、スマッシュ・ヒットを記録する。その後も、短編集を映画化した『漫☆画太郎SHOW ババアゾーン(他)』(04年)をはじめ、『魁!!クロマティ高校 THE☆MOVIE』(05年)、『激情版エリートヤンキー三郎』(09年)、『極道兵器』(11年)など、映像化不可能と言われたコミック原作を次々と実写映画化する。11年の『デッドボール』では『地獄甲子園』をセルフリメイク、温水洋一主演作『アブダクティ』(13年)ではシチュエーション・サスペンスに挑戦し、13年のブリュッセル国際ファンタスティック映画祭において、SILVER RAVEN(準グランプリ)を受賞した。また、本作にも出演している板尾創路監督作『板尾創路の脱獄王』(09年)には、脚本家・クリエイティブディレクターとして参加している。

ページ:
1

2

OFUSEで支援する

記事が役に立ったという方はご支援くださいますと幸いです。上のボタンからOFUSE経由で寄付が可能です。コンテンツ充実のために活用させていただきます。

関連記事

イベントカレンダー

プレゼント

  1. 20250530_movie_puffin_01

    1組3名まで参加可能な親子試写会!映画『パフィンの小さな島』(吹替版)親子試写会ご招待!

    『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』『ウルフウォーカー』などアイルランドの伝説を題材に美しいアニメー…
  2. MINECRAFT

    1組3名まで40名ご招待!親子で楽しめる異世界転送ファンタジー映画『マインクラフト/ザ・ムービー』(2D吹替)親子試写会ご招待!

    子どもたちに大人気、世界で一番売れているゲーム “マインクラフト” が初の映画化!『マインクラフト/…

注目イベント

  1. 20250425_report_DINOSAFARI_01

    2025年5月6日(火・振休)まで渋谷ヒカリエで開催! 恐竜学者 小林快次氏のトークセッションも!

    「ディノサファリ 2025(DINO SAFARI 2025)」で、恐竜たちの “家族の絆” を体感!
    体験型「恐竜」ライブエンターテインメント ディノアライブ「ディノサファリ 2025(DINO SAF…
  2. 20250426_event_snoopymuseum_01

    2025年4月26日(土)~6月9日(月)スヌーピーミュージアムで開催!

    「ビーグル・スカウト」のスヌーピーになりきろう!
    「ビーグル・スカウト」のスヌーピーになりきって楽しめる限定企画が2025年4月26日(土)~6月9日…
  3. 20250802_event_sekaiichinoneko_00

    2025年8月2日(土)・3日(日)上演! 日生劇場ファミリーフェスティヴァル

    舞台版『せかいいちのねこ』(東京公演)
    本物の猫になりたいと願うぬいぐるみのニャンコが、旅先で出会う本物の猫たちの優しさに触れて本当の幸せを…
  4. 2025summer_teaser_final_0401
    この夏、Wヒーローによる豪華2本立て映画『仮面ライダーガヴ&ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーWヒーロー…
  5. 20250730_event_nipponfoundation_00

    詳細は2025年6月末ごろ発表! 子どもたちに夢を! 憧れの選手に会いにいこう!

    日本財団が「リヴァプールFC vs 横浜F・マリノス」にともない子どもたちが夢を持てるイベントを実施!
    横浜F・マリノスとリヴァプールFCが対戦する「明治安田Jリーグワールドチャレンジ2025 prese…

おすすめスポット

  1. 20231009_event_FUNFUN_01

    2023年10月9日(月・祝)スクエア荏原(東京都品川区)で開催!

    あそビバ まなビバ FUNFUNスクール ハロウィン特別企画「マジック工作ワークショップ 第二弾」
    Mr.マリック公認プロマジシャンとマジック工作ワークショップを楽しめるイベント『あそビバ まなビバ …
  2. 202310_spot_citycircuit_01

    2023年10月28日(土)東京・ベイエリアに開業!

    シティサーキット東京ベイ(CITY CIRCUIT TOKYO BAY)
    国内最大級のEVレーシングカートの都市型サーキット「シティサーキット東京ベイ(CITY CIRCUI…
  3. 20240618_report_humannature_01
    子どもから楽しめる体験型アートを展示し、最先端技術とアートを通して未来の東京を考えるきっかけをつくる…
  4. ドコドコ_ロゴ運用マニュアル0726

    2018年10月11日(木)立川髙島屋S.C.にオープン!

    冒険の島 ドコドコ
    激流すべりや雲に乗って冒険遊びができるバンダイナムコの最新デジタルプレイグラウンド「屋内・冒険の島 …
  5. 20230616_spot_HarryPotter_01

    ハリー・ポッター スタジオツアー東京が、としまえん跡地に2023年6月16日(金)グランド・オープン!

    ワーナー ブラザース スタジオツアー東京 – メイキング・オブ・ハリー・ポッター
    「ハリー・ポッター」「ファンタスティック・ビースト」の世界観を楽しめるハリポタ施設、体験型エンターテ…

アーカイブ

ページ上部へ戻る