
「子どもの夢の叶え方」第2回 コーリー・レイさんインタビュー
映画『モンスターズ・ユニバーシティ』が
できるまで
ー 続編ではなく、マイクとサリーの出会いや学生時代を描こうと思ったのはなぜですか?
確か2008年頃だったと思うのですが、ピート・ドクター(※1)が『モンスターズ・インク』の次のことで何かアイデアを持っているということで、ジョン・ラセター(製作総指揮)、アンドリュー・スタントン(※2)、ダン・スキャンロン(※3)とミーティングをしました。“時代を戻ろう、大学を舞台に、マイクとサリーがどうやって出会ったかを語ろう”というアイデアは、そのときに生まれました。映画にできる素晴らしいアイデアだったので、みんな夢中でしたね。
※1 ピート・ドクター:『トイ・ストーリー』『モンスターズ・インク』の監督
※2 アンドリュー・スタントン:『ファインディング・ニモ』『ウォーリー』の脚本・監督
※3 ダン・スキャンロン:『モンスターズ・ユニバーシティ』の監督
マイクとサリー、2人の関係性は何だったのか、どちらが主導権を握っていたのか、そしてこの物語をマイクの物語にするのか、それともサリーの物語にするのか、そんなやりとりを何度もしました。ただ、サリーは最初の映画から際立っていましたし、彼がどんな人物なのか、私たちは知っていますよね? だから今回はマイクの物語にしようと決めました。でもそれはとても大変なことで、すでに『モンスターズ・インク』で彼らがどうなっているかはわかっているので、そうなるにはどうしたらよいか、時間をかけていろいろな案を出しては話し合いました。
ー 技術的にもすごい進歩ですよね?
今回のサリーの体毛は『モンスターズ・インク』のときの15倍。さらにキャンパスを埋め尽くす400を超えるキャラクターをつくりました。そして光と闇を効果的に使うためのグローバル・イルミネーション(全体照明)とライティング(単なる照明)により、レンダリングの作業量は、仮にコンピュータ1台で完成させようとすると1万年を要する膨大な量でした。これはディズニー/ピクサー作品の最高記録で、1コマのレンダリングに費やされた時間は約25時間もの長さになりました。しかしその巧みな光と色の表現により、ドラマチックな感情表現とダイナミックな世界観が実現できたと思っています。
ー 制作をしていくうえで、何が一番難しかったですか?
物語をつくることはいつもながら大変なのですが、この作品ではキャラクターの多さ、背景にいるキャラクターではなくて、主役級がたくさん出てくるのが大変でした。作品のほとんどのパートにマイクがいてサリーがいて、さらにはみ出し者たちが全部いて。1ショットにつき平均25ものキャラクターがいるんです。そんなショットをたくさん撮らなければならなかった。さらにそのキャラクターたちをすべてデザインして、つくり上げて、動かす。このプロセスを短時間で行うことはどうしてもできなくて、とても時間のかかることなんです。それが大変な挑戦でした。
夢破れたその先に
何かがあるかもしれない
それに気がつくには
下を向いちゃダメ
ー 『モンスターズ・ユニバーシティ』で子どもたちに何を伝えたいですか?
夢を追いかけたときに、うまくいかないことはよくあることです。でもそのときに心を閉ざさないで、オープンにしていくことで、ひょっとしたら前に見ていた夢以上にすばらしい夢に出会えるかもしれないということ。それがこの映画のひとつの大きなテーマなんです。
ー それは、マイクの「怖がらせ屋になる」という夢が、厳密には破れていることと関係していますか? 「努力し続けても叶わないこともある」、そういうことも示唆しているのでしょうか?
「がんばればなんとかなる」ということを伝える映画が多いけれど、現実の世界は実はそうではなくて、自分自身も、そして自分のまわりを見ても、必ずしも最初に思ったことがすべてうまくいくわけではありません。でも、壁にバン!とぶつかって、ふっと横を見たときに、向こうの方に「あれ?」と思う別のもの、別の夢が出てくることがあります。だから大切なのは、壁にぶつかったときに下を向いてしまうのではなく、そういうことに気がつけるよう、常に心を開いている、ということです。「がんばっても夢は叶わないときもある」という後ろ向きなことではなく、常に心を開いて次を見つけるということが大切なんだ、ということを感じとっていただければと思います。
ー 大学を退学させられてしまったり、予定調和じゃないところがいいですね。
そこも大切なポイントです。何か間違いやルール違反、本来やるべきではないことをしてしまったとき、その代償は払わなければならない。やってしまったことの責任はとらなくてはならないんです。だから大学は追い出された。でも、名門大学を出て有名な会社に入って‥‥、という伝統的なレールが外れてしまっても、心をオープンにして別のハシゴを見つければ、夢に近づくことはできるかもしれない。彼らの場合、モンスターズ・インクで郵便配達係から始めたわけですが、ひとつの道が閉ざされても注意深く見ていれば新たな道が開け、そしてそれはまた新たな夢につながるかもしれない、ということです。
とにかくやってみること
そしてやり続けること
親はそれを続けられるように
してあげること
ー ディズニー映画を大好きな子どもたちは多く、そのなかには将来映画をつくりたいと思っている子どももいると思います。そんな子どもたちは、今、何をすればいいと思いますか?
まずは物語をつくるということですね。そして、今は携帯やスマホでだって動画を撮れますから、とにかく動画を撮って、つくってみることです。『モンスターズ・ユニバーシティ』の監督のダンも、幼いときからとにかく映画というものをつくっていました。大事なのは、とにかく始めること、何かをつくってみること。そしてつくり続けること、たくさんつくることですね。
ー そのとき親は何をしてあげるといいと思いますか?
子どもの想像力をできるだけ育てることだと思います。たとえば、こんな映画を観たらとか、こんなのがあったよとか、こんなことしたらどうなのとか、参考になるものやヒントになりそうなものを教えて、あとは子どもに考えさせること。そして子どもは飽きてやめてしまうことが多いけれど、続けられるようにしてあげることも大事だと思います。
ー コーリーさんの子どもの頃の夢、そして今後の目標は?
プロのスポーツ選手でした。でもなれずに、今は映画をつくっています。ピクサーに入ってCGアニメや映画づくりがどういうものかを学び、理解できるようになってからは、いつかは素晴らしい作品をつくりたいと思っています。そのためには、映画に関することはもちろんですが、仕事と直接関係なくても、わからないことは質問したり調べたりして理解するようにしています。そして映画づくりのプロセスを理解し、映画づくりとは何かを理解すること。今でも、日々勉強しています。
【インタビュー】ディズニー/ピクサー『インクレディブル・ファミリー』プロデューサー ジョン・ウォーカーさんインタビュー!
【インタビュー】ディズニー/ピクサー『カーズ/クロスロード」』プロデューサー アンドレア・ウォーレンさんインタビュー!
インタビュー後記
「夢ってがんばったってなかなか叶わないな」。大人になるにつれ、誰もが直面する現実だと思います。しかし多くの映画は安直に「がんばれば夢は叶う」と言ってしまう。ディズニー/ピクサーが「そうじゃないよ、でもね‥‥」と子どもたちに伝えたことは、すごく大きなことだと思います。特に最近の日本の社会は、一度失敗すると、なかなか次のチャンスがありません。子どもたちにも「失敗したっていいんだよ」と言いつつ、でも実際にはそうではない雰囲気が漂い子どもたちは萎縮して、挑戦することさえしなくなってしまう。コーリーさんがよく言っていた「Mind Open.」。夢破れても失敗しても、心を開いていれば、別の何かは見つかるかもしれない。そしてそれが新たな夢になっていく。そう考えると、夢は決してなくなりません。あとは挑戦し続ける気持ちを持てるかどうか、ですね。
『モンスターズ・インク 3』というか、続編の予定はまだないそうです。『モンスターズ・インク』の最後は、子どもたちの恐怖の叫び声ではなく、笑い声はそれよりも大きなパワーを持っているということに気がついて終わっています。大きくなったブーのいる人間世界のエネルギー問題を、モンスターたちと協力して救っていく、そんな物語も考えられるのかもしれませんね。
コーリー・レイ
『バグズ・ライフ』(98)や『トイ・ストーリー2』(99)のアニメーション・マネージャーを経て、『モンスターズ・インク』(01)でアソシエイト・プロデューサーに。『Mr.インクレディブル』(04)のアソシエイト・プロデューサー、『カールじいさんの空飛ぶ家』(09)のプリプロダクション・プロデューサーを務めたほか、テレビシリーズ「カーズトゥーン/メーターの世界つくり話」(08〜10)では、プロデューサーおよびエグゼクティブ・プロデューサーを担った。
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