子どもの夢の叶え方

第15回 西田賢司さん(探検昆虫学者)

1998年から中米コスタリカに単身移住し、18年間にわたり昆虫と暮らしながら研究を続けている今注目の探検昆虫学者西田賢司さん。数多くの新種や新生態を発見し、国際的に活躍していることでも知られている。このたび「ナショナル ジオグラフィック日本語版」で4年間連載している「コスタリカ昆虫中心生活」が一冊の本に。「ヘン」で「奇妙」、かつ「美しさ」や「繊細さ」をたっぷり備えた“ミラクル”な昆虫たちを、西田さんの撮影した写真とともに紹介している。「勉強したくない」という理由から中学卒業後に留学、「探検昆虫学者」という仕事に至った経緯、そして昆虫に関する仕事をするにはなど、お伺いしました。(インタビュー:2015年8月20日(木) / TEXT:キッズイベント 高木秀明 PHOTO:大久保景/昆虫写真・コスタリカの写真は西田賢司さん提供)
キッズイベント「子どもの夢の叶え方」第15回 西田賢司さん(探検昆虫学者)インタビュー

一年に一度の帰国のタイミングでインタビューさせていただいた、探検昆虫学者の西田賢司さん。昆虫の飼育や観察、論文をはじめ、コスタリカの大学や世界各国の研究機関からの昆虫の調査やプロジェクトにも携わるなど、多忙な日々を送っている。自身の研究については内容が特殊すぎるので、ひとりでやるしかないそう

コスタリカの不思議で美しい昆虫を紹介!
4年間の連載をまとめた書籍『ミラクル昆虫ワールド コスタリカ』が発売!

ー 昨日の渋谷での『ミラクル昆虫ワールド コスタリカ』出版記念トークイベントは大盛況でした。実は『キッズイベント』でも告知させていただこうと思っていたのですが、告知前に満席になってしまいました。先日は子どもたちを集めた昆虫採集イベントも開催されたそうですね。

千葉の房総半島で昆虫採集イベントを2日間やりました。4歳〜10歳くらいまでの子どもたち30人くらいが集りました。自然保護団体が主催したイベントで、森に入って昆虫を採集して、午後から顕微鏡を使って観察したり、写真撮影したり、標本をつくりました。

子どもたちは、セミ、カマキリ、バッタ、クワガタ、カミキリムシ、蝶、トンボ、ほかにニホントカゲやカエルも捕まえていましたね。昆虫の中にはデリケートなものもいるので、子どもたちには生きものを優しく扱うように、ということだけを指導して、僕は極力、手も口も出さずに、子どもたちが集中しているところを邪魔しないようにしていました。

ー 今回出版された『ミラクル昆虫ワールド コスタリカ』には、見たことのないような不思議で楽しい昆虫がたくさん紹介されています。掲載する昆虫選びは大変でしたか?

「ナショナル ジオグラフィック 日本語版」の「Webナショジオ」というコーナーで4年間連載していた「コスタリカ昆虫中心生活」をまとめた本で、70種以上の昆虫を紹介しています。今回選ばれた昆虫たちや他の生きものたちは、僕が選んだわけではないんです。僕目線ではなく、昆虫とあまり関わりのない人たちが選んだ方がいいのかなと思って。このラインアップはバランスが良く、次のページをめくるのが楽しくなるような構成になっていると思います。

キッズイベント「子どもの夢の叶え方」第15回 西田賢司さん(探検昆虫学者)インタビュー

昆虫の中には、まるで宝石のようにきれいな色をしたものも。写真左はメタリックグリーンのラメを身にまとっている体長8ミリほどのクチブトゾウムシの仲間。写真右は中米に多く生息するプラチナコガネ。色素ではなく、構造色という光の干渉によって再現される色を持つ 撮影:西田賢司

ー 写真もとてもきれいですね。昆虫の生きている姿にこだわっているそうですが。

死んでしまうと色が変わったり、質感が変わったりと、本来の姿ではなくなってしまいます。やはり生きている姿が美しい。その姿をありのまま撮りたいですね。書籍では1点だけ標本が入っていますが、あとはすべて生きている姿です。

「探検昆虫学者」という仕事、知っていますか?

ー 書籍を拝見し、今回はじめて「探検昆虫学者」という存在を知りました。「探検昆虫学者」とはどのような学者で、その仕事内容は?

「探検昆虫学者」は、生きものを使って、他の生きものの数を自然に近い形で制御する「生物的防除」のために、天敵となる昆虫を探して研究する昆虫学者のことです。仕事の内容としては、僕の場合は、ハワイに持ち込まれた外来植物の一部が現地の自然の生態系に悪影響を及ぼす「侵入植物」となっているため、それを抑えるために、その植物がもともと生えているところ(コスタリカ)から、その植物だけを食べる昆虫を探し、ハワイに導入して生態系のバランスをとる、ということをしています。

ー 探検昆虫学者はたくさんいるのですか?

世界にもそんなにいないと思います。でも、その仕事をどう呼ぶか、ということでもありますね。僕はアメリカ政府からハワイの仕事の依頼があって探検昆虫学者の仕事をしていますが、僕がやる前に先輩がいて、英語で「Exploratory Entomologist」と言っていたんです。これをどう訳すかと考えたときに「Explore」は「探検」というのが辞書の最初に出てくるし、日本人にとってもわかりやすい。英語では「探求」や「探索」など少し意味は広いんですが、「生物的防除」に役立つ昆虫を見つけ出して生態を探るというのには「探検」の要素もあるし、人間が崩しつつある生態系のバランスを整える手助けをするという大きな夢を追いかけるロマンも感じるかなと、「探検昆虫学者」としました。

キッズイベント「子どもの夢の叶え方」第15回 西田賢司さん(探検昆虫学者)インタビュー

コスタリカの山では、ふちの深い帽子をかぶり、レインウェア、ベルトには大きな袋、そしてカメラと虫取り網を持って昆虫採集を行なうそう。採集した昆虫はエサとなる植物とともに袋に入れ、その袋をたくさん持っているため「バッグマン」と呼ばれることも 写真提供:西田賢司

ー ということは、この「探検昆虫学者」という言葉は、西田さんが考えたものだったんですね。

そうですね。「Exploratory Entomologist」をいくら調べても使われている日本語がなかったので、名付けました。昆虫学者で「生物的防除」をやっている人はいると思うんですけど、僕はハワイでの仕事を前任者から引き継いたときに一緒に肩書きも受け継ぎ、それを訳したということですね。でも特にハワイは侵入植物が多くて問題になっているので、この仕事自体がハワイ発祥と言ってもいいくらいだと思います。

「探検昆虫学者」は、なくなった方がいい仕事

ー 2002年頃からハワイで「探検昆虫学者」の仕事をされていますが、成果はかなり出ているんですか?

“かなり”は、出ていないです。少しずつ、ですね。今は僕が研究した昆虫をハワイに持って行って、隔離施設で繁殖させるところまで、なんとかこぎつけました。ここ数年は繁殖の失敗が続いていて、一山やっと超えたかな〜、というところです。

キッズイベント「子どもの夢の叶え方」第15回 西田賢司さん(探検昆虫学者)インタビュー

生物的防除には、どうしても時間がかかってしまう。探検昆虫学者のような仕事がない世界が望ましく、それには、今ある自然をできるだけそのまま残すこと

ー 持って行く昆虫によって別の悪影響が出てしまってもいけないわけですから、責任も重大ですよね。

どの昆虫を選べばいいかというのが難しいですね。いろいろな昆虫を見て、徐々に絞っていって、ある程度の期間それを調べて、OKならハワイに持って行って、さらに同じように向こうの環境でどうなるかを何年か調べてと、ここに時間がかかると実施が遅れてしまうのですが、問題が起きてもいけないので、どうしても時間が必要になります。

それに実際に実施をする段になると、昆虫を放すためには政府の許可や、ハワイ市民の許可も必要になります。政府が「昆虫を放しますよ」と言うと市民から反対され、そうするとそこでしばらく止まってしまいます。そこから今度は市民との和解の仕事がはじまります。でもそうやっているうちにどんどん侵入植物は増え、もともとの環境を破壊し、結局は手遅れ、というのが残念ですがほとんどですね。

ー 日本だと小笠原諸島とかがあてはまりますか?

そうですね。問題が多いと思いますね。アノールトカゲとか。でもまぁ手遅れっぽいというか‥‥。対応が遅くなればなるほどしんどいし、数が増えれば増えるほど人間の手ではどうしようもない。だから生物の手を借りるしかないわけですけど、それをするのも慎重にやらなければなりません。

それにハワイに行ったときに感じたのですが、政府自体もどこまで真剣に防除しようと考えているのか、観光優先でチェックもあまり厳しくないので、どんどん外来種が入ってくるわけです。もちろん危機感を持って真剣に考えている人たちもいますが、みんながみんなそうではないんです。だからこういう仕事はずっと存在し続け、仕事がなくならないから喜ぶ人もいますが、僕としては、こんな仕事は早くなくなってほしいですね。

キッズイベント「子どもの夢の叶え方」第15回 西田賢司さん(探検昆虫学者)インタビュー

コスタリカのラボ兼住まい。室内は採集した昆虫を飼育している袋が部屋中に吊るされている 撮影:西田賢司

ー 日本ではそういう依頼はないですか。

ないですね。小笠原ならアノールトカゲで、沖縄はマングースとかですかね。僕の場合は専門が昆虫なので、防除する対象はだいたい植物がメインです。昆虫で昆虫を抑えることもありますが。

ー でもそうなると昆虫はもちろんですが、植物にも詳しくないといけないですよね。そして日本語と英語、コスタリカだとスペイン語も必要ですよね。

はい、植物にもだいぶ詳しくなりました(笑)。学名、和名、日本語でどう呼ばれているかとか、常に学ぶしかありません。学んでいくうちに脳が順応した感じです。気づかれずひっそりと絶滅してしまう昆虫の種もたくさんいますが、まだまだ見つかっていない種も多く、見つけていく限り増えていきますから、覚えることはどんどん増えていきますね。

ー 西田さんは新種を見つける方というイメージが強いのですが、それは見つけようと思っているわけではく、見つかってしまうということですか。

テレビ番組などでは新種を見つけることが目的でしたが、日々の仕事は違います。採集したものや、飼育していたらそれが新種だったということですね。昆虫は少なくとも1,000万種は存在すると考えています。これまでに学名がつけられたのは約100万種なので、まだまだ新種の方が多いんです。

■ 次ページでは、西田さんが「探検昆虫学者」になるまで、そして昆虫好きの子どもたちにアドバイス!

キッズイベント「子どもの夢の叶え方」第15回 西田賢司さん(探検昆虫学者)インタビューミラクル昆虫ワールド コスタリカ

西田賢司(著)/日経ナショナル ジオグラフィック社/1,800円+税

昆虫とともに暮らす探検昆虫学者・西田賢司が贈る、小さな昆虫たちの大きな世界。昆虫だけで日本の何十倍もの種が生息している生物多様性の国・中米コスタリカに住み、昆虫を採集・飼育、研究している探検昆虫学者・西田賢司が、「ヘン」で「奇妙」、かつ「美しさ」や「繊細さ」をたっぷり備えた「ミラクル」な昆虫たちを、自ら撮影した素晴らしい写真とともに解説。昆虫たちの不思議な魅力、すごさ、そしておもしろさを楽しめる一冊。

■ 書籍『ミラクル昆虫ワールド コスタリカ』について詳しくはこちら!

キッズイベント「子どもの夢の叶え方」第15回 西田賢司さん(探検昆虫学者)インタビュー西田賢司(にしだ けんじ)

探検昆虫学者。1972年、大阪府松原市生まれ。中学卒業後、米国に渡り、大学で生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学で蝶や蛾の生態を主に研究。昆虫を見つける目の良さ、飼育や写真記録のうまさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在はコスタリカの大学や世界各国の研究機関からの依頼を受けて、昆虫の調査やプロジェクトに携わっている。第5回「モンベル・チャレンジ・アワード」受賞。NHK「ダーウィンが来た! 生きもの新伝説」「ホットスポット 最後の楽園 season2」、NTV「世界の果てまでイッテQ!」、TBS「世界ふしぎ発見!」、MBS「情熱大陸」などテレビ出演多数。著書に『わっ! ヘンな虫 探検昆虫学者の珍虫ファイル』(徳間書店)、『コスタリカの奇妙な虫図鑑』(洋泉社)など。Webナショジオで「コスタリカ昆虫中心生活」を連載中。

・探検昆虫学者 西田賢司ホームページ
・Webナショジオ「コスタリカ昆虫中心生活」

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