書籍『北極と南極のへぇ〜 くらべてわかる地球のこと』著者・極地記者

極地記者・中山由美さん(朝日新聞記者/第45次南極観測越冬隊同行)インタビュー!

南極でアデリーペンギンと一緒に写る中山由美さん(『キッズイベント』インタビュー「子どもの夢の叶え方」より)
南極でアデリーペンギンと一緒に写る中山由美さん。南極の生き物を守るため、ペンギンは5メートル以上、アザラシは15メートル以上離れて観察しなければならない
突然ですがクイズです。「南極と北極、どちらの方が寒いでしょう?」ニュースなどでもよく耳にする南極と北極、気軽に行けない寒いところという共通点はありますが、実はいろいろな違いがあるんです。そんな違いを子どもたちにもわかるように楽しくまとめた書籍『北極と南極のへぇ〜 くらべてわかる地球のこと』が2019年7月30日(火)に発売! 地球温暖化でますます注目の集まる南極、北極について、著者であり、また女性記者として初めて南極観測越冬隊に同行取材した “極地記者中山由美さんにインタビュー! 北極と南極の違い、国境のない南極、そして地球温暖化など、いろいろとお伺いしました!(インタビュー:2019年8月5日(月) / TEXT:キッズイベント 高木秀明 PHOTO:松嶋愛)

知ってほしい! 南極と北極はこんなに違う!
意外と知らない、南極と北極の違い

ー 書籍『北極と南極のへぇ〜 くらべてわかる地球のこと』には、知っているようで知らないことがたくさん、やさしく丁寧に書いてあり、とても楽しく読ませていただきました。知らないことが多くて大人として恥ずかしいと思いましたが、中山さんが2003年にはじめて南極に行くことが決まったとき、多くの方から「シロクマに気をつけて」と言われたとか。みなさんそれくらいの認識なのかと、ちょっと安心しました(笑)。考えてみると「ナンキョクグマ」というのは聞いたことないですよね。

あちこちの講演で、よく「北極と南極はどっちが寒いでしょう?」という質問をするんですが、「同じくらい」の次に「北極の方が寒い」という答えが多いんです。やっぱり日本人は “北の方が寒い” というイメージがありますね。ちょっと考えると「南極」という答えが出てくるんですが、意外と大人も「北極の方が寒い」と思っている人は多いんですよ。

漢字にルビがふってあったり、イラストや写真もたくさんあるので子ども向けの本ではありますが、お子さん向けだけではないんです。大人の方にも向けて解説しているので、ぜひ一緒に読んでほしいですね。どちらも知らなかった、ということがあると話も弾んで楽しいと思います。

【プレゼント】インタビューした “極地記者” 中山由美さんの書籍『北極と南極のへぇ〜 くらべてわかる地球のこと』をプレゼント!

『キッズイベント』のインタビュー「子どもの夢の叶え方」で、南極、北極についてのお話をしてくれた、女性新聞記者(朝日新聞)として初めて南極観測越冬隊に同行取材した “極地記者” 中山由美さん。2019年7月30日(火)に、書籍『北極と南極のへぇ〜 くらべてわかる地球のこと』を出版
南極や北極に何度も行っている方なので、勝手に “がっしり” したイメージを持っていたのですが、実際には写真のように、どちらかというと華奢な感じにも見えます。しかし「アスリート系で、めっちゃ筋肉質です。今日も朝から走ってました。この暑いのに(笑)」と中山さん

ー 本書を書いたきっかけは?

これまで南極に2回(2003年11月〜2005年3月まで第45次南極観測越冬隊に、2009年11月〜2010年3月まで第51次夏隊セールロンダーネ山地地学調査隊に同行)、北極には7回行って、両方を体験すると大きな違いを感じるんです。でも世の中のほとんどの人は、どちらも “雪と氷の極寒の世界” という認識です。確かに似ているところはありますが、私にとっては “すごく違う場所” なんです。

講演などでは話しているのですが、もっと多くの子どもたちに伝えたいと思って、南極と北極を一緒にした本にしました。難しいことではなく、子どもたちがおもしろがって、まさにタイトルのように「へぇ〜」という気づきや驚きを感じてくれればいいなと思っています。




ー 南極と北極の一番の違いは何ですか?

やっぱり寒さが一番わかりやすいかな。「同じくらい」とか、「北の方が寒い」と思っている人が多いですが、実際には格段に南極の方が寒いんですよね。最低気温が北極がマイナス60度くらいだとすると、南極の最低気温はマイナス90度近くで、全然違います。

北極圏には何千年も前から先住民がいて、そこには生活や文化、歴史があります。一方、南極ははるか遠くにあって人を隔てていて、人間が行きはじめたのは、そんなに昔のことではありません。人との関わりを感じられる北極と、まったく人が入っていなかった南極、というところも大きな違いです。

だから南極では簡単に動物の写真が撮れるんです。人間に対する警戒心が薄いので、ペンギンでもアザラシでも目の前でゴロゴロしています。でも北極の生き物は、はるか遠くから見つけても、すぐに逃げてしまいます。“ぼ〜っ” としてたら猟師に捕られちゃうし、シロクマにも襲われる。だから人間も動物も、南極と北極ではまったく違いますね。
※南極大陸は1820年に発見され、1839年からさまざまな国による南極探検がはじまり、初の南極点到達はロアール・アムンセン率いるノルウェー探検隊によって1911年12月に達成された。

書籍『北極と南極のへぇ〜 くらべてわかる地球のこと』が2019年7月30日(火)に発売! その著書であり、女性新聞記者(朝日新聞)として初めて南極観測越冬隊に同行取材した “極地記者” 中山由美さんに、南極と北極の違い、戦争のない南極、そして地球温暖化、夢の叶え方などについてインタビュー! 中山由美さんは、小学校などで子どもたちにも南極と北極についての講演をしています。
南極は取材に行くたびに体験記を出版しましたが、北極は新聞記事や雑誌だけで本は出していなかったので、まとめた本を出したいとも思っていました

人間は生物のなかで一番の愚か者?
南極のようにすべての地域を戦争のない世界に

ー 書籍に書かれていますが「南極はどこの国の領土でもない」というのも素晴らしいですね。戦争が起こったこともない。宇宙には「宇宙条約」がありますが、軍事利用や資源開発など南極と同じとは言い難くなっています。南極以外の地域にも争いのない世界を広げていくには、どうしたらいいでしょう?

南極は「南極条約」で守られています。「南極条約」のすごいところって、人間の欲を最初に止めちゃったところです。つまりここを領土にしたいとか、資源開発や軍事利用したいとか、人間の “我” の部分をそぎ落とした。そうしたら紛争がなくなるという、すごくシンプルな話なんですよね。南極ではできているのに世界中でできていないのは、人間はなんて愚かなんだろうと思いますね。

ー 宇宙飛行士はものすごい訓練を経て選ばれた方々で、みなさん人間性が素晴らしい。それこそ “我” を感じません。南極などの極地に行かれる方も同じように素晴らしい人間性の方々で、そうじゃないと、さまざまな国の人たちが争わずに一緒に仲良くやっていくことはできないのでしょうか?

南極に行くからって人間性が素晴らしいということはありませんよ(笑)。そんな高尚なことじゃなくて、46億年という歴史ある地球的な視点から見れば、人間はそのなかの生物のたったひとつで、人間のなかでの差なんてあまりにも小さい。その小さななかで、国や人種、文化や宗教が違うとか、そしてそこで区別や差別をしたり、偏見を持ったりするのってバカらしいと思うんですよね。

人間だけが無駄な争い、殺戮をします。もちろん動物にも争いはありますが、それは生きていくためのなわばり争いだったり、子孫を残すためで、無用な争いはしません。人間って動物のなかで一番高等だと思っているところから間違えているというか、改めた方がいいですよね。実は一番愚かかもしれない。

みんな自分たちの尺度で考えてしまっているんでしょうね。人間はこうだから、こういうことができない生き物は下等だとか、劣っているとか。そして人間同士でもそれぞれの尺度で国や文化、学校の成績も比べて、偉いとか、すごいって言っています。でも比べるって、しょせん誰かがつくった誰かの基準で、人間がつくったものなんです。それをなくせば上とか下とか、偉いとかすごいとかって、ないんじゃないかなって思います。
※南極条約:南極地域の平和的利用や領有権凍結等を定めた多国間条約。1959年に日、米、英、仏、ソ連(当時)等12ヵ国により採択され、1961年に発効。2016年2月現在、締約国数は53。

※宇宙条約:1967年に発効した宇宙空間の利用を定めた条約で、特定の国家による領有を禁じているほか、大量破壊兵器の配備を禁じるなど平和利用の原則をうたい、100ヵ国以上が同意。しかし資源探査についての明確な規定はなく、企業など非政府団体の活動については国が監督義務を負うとしている。なお米国のオバマ大統領(当時)は2015年、米国籍の個人と米国に本社を置く法人による宇宙資源の商業利用を認める法案「宇宙法」に署名した。

『キッズイベント』のインタビュー「子どもの夢の叶え方」で、南極、北極についてのお話をしてくれた、女性新聞記者(朝日新聞)として初めて南極観測越冬隊に同行取材した “極地記者” 中山由美さん。2019年7月30日(火)に、書籍『北極と南極のへぇ〜 くらべてわかる地球のこと』を出版
みんな自分たちの尺度で考えて比べている。でもそれは誰かがつくった基準。それをなくせば南極のような平和な世界になるかも

子どものころから変わらない
知らない世界に飛び込みたい、知りたい!

ー 新聞記者、ジャーナリストになったきっかけは?

好奇心が旺盛で、自分の知らないところに行ってみたいとか、やってみたいというのが子どものころから強かったですね。よく読んでいたのも『ナルニア国物語』『指輪物語』『長くつ下のピッピ』などの冒険ものやファンタジーの本が大好きでした。

外国語に興味を持ったのも、はるか遠く地球の裏側にまで行って、全然違う言葉でコミュニケーションをしてみたいというのがあったからです。知らない世界に飛び込みたい、知りたい、挑戦したい。それは私の根っこにあるもので、子どものころからずっと、いまも続いていると思う(笑)。

ー そこで見たものを伝えたいという思いも強いのですか?

最初は旅行で山や海、だんだん海外にも行くようになり、みなさんと同じように感動したりしていましたが、南極、北極に行くようになったとき、極地は誰しもが行ける場所ではないので、そこで見たこと、すごいこと、驚いたことを、100%は共感していただけないかもしれないけど、伝えたいなと思いました。

報道の仕事をしているので記事やテレビを通して映像でも伝えてきましたが、講演などで子どもたちに話したり、いろいろな形でもっと多くの人に伝えたいと思っています。そして私が伝えたことに「へぇ〜」って興味を持って、今度はその子どもたち自身が何か興味を持てることを発見することにつながると嬉しいです。

あまり否定してはいけないけれど、いまはスマートフォンやパソコンから、簡単にいろいろな情報を得ることができ、それで満足してしまいます。でも何かで読んで得た知識と、自分の体験からのインプットや思い出って、まったく情報量や熱が違うじゃないですか。南極や北極のように遠くじゃなくても、身のまわりの川とか山、林のなかでも何か興味を持てることを見つけることはできます。自分の体を動かしたことによる刺激や興奮、感動を、もっともっと子どもたちに知ってほしいなと思っています。

『キッズイベント』のインタビュー「子どもの夢の叶え方」で、南極、北極についてのお話をしてくれた、女性新聞記者(朝日新聞)として初めて南極観測越冬隊に同行取材した “極地記者” 中山由美さん。2019年7月30日(火)に、書籍『北極と南極のへぇ〜 くらべてわかる地球のこと』を出版
私が書いた記事や撮影した映像は、私が驚いたりびっくりしたこと。子どもたちにはここから、自分自身の興味を見つけてくれるといいな

突然の「南極取材」
どんな人が南極に行ける?

ー 南極に行くのは望んでいたことではなく、突然、そして “偶然” ですよね。どう思われましたか?

北海道やアラスカには行ってみたいと思っていましたが、南極は行けるところと思っていなかったので、自分の考えの範疇にないことを突然言われたのでびっくりした半面、そんなところに行けるなら、なんでもいいから “行きたい!” と思いました。

ー なぜ中山さんに南極行きの白羽の矢が当たったのでしょうか? 南極越冬に耐えられる素質みたいなものを、上司の方はどこに見出したんですか?

社会部の新米記者だったとき、“一番機” と言って事故や災害の現場に真っ先に駆けつけていました。災害救助の取材でその場から離れられないときはダンボールを布団がわりに寝たり、そういうことを平気でやっていました。

また2001年の同時多発テロの長期連載『テロリストの軌跡』でテロリストの足跡を辿っていたら、本当にテロリストに辿り着いて、その人を夜討ち朝駆けの取材をしていました。これは知らずにやっていた結果論なのですが、そういう経験をしていたから、「こいつはどこに行っても生き延びていけそうなしぶといヤツ」というイメージがあったのではないかな(笑)。

書籍『北極と南極のへぇ〜 くらべてわかる地球のこと』が2019年7月30日(火)に発売! その著書であり、女性新聞記者(朝日新聞)として初めて南極観測越冬隊に同行取材した “極地記者” 中山由美さんに、南極と北極の違い、戦争のない南極、そして地球温暖化、夢の叶え方などについてインタビュー! 中山由美さんは、小学校などで子どもたちにも南極と北極についての講演をしています。
夏隊は往復にかかる時間もあり現地にいるのは2ヵ月くらいで、長い出張のような感じなんです。しかし越冬となると “暮らし” になります。南極での暮らしをもう1回やってみたいという気持ちもあります

祝! 第61次南極観測越冬隊に参加決定!
現地からリアルタイムの報道を

ー 第45次南極観測隊で越冬を体験し、その後、北極に、そしてまた第51次南極観測の夏隊に参加、さらに2019年11月27日(水)に出発する3度目の南極「第61次南極観測越冬隊」に参加することが決まりました。それは志願して行くのですか?

そうです。南極から帰ってから、講演やイベントで全国をまわって南極の話ばかりしていたので、北極も知って、両方の話をしたいなと思ったのがきっかけです。もちろん会社の仕事として行っているので、今回の取材ではこんな写真が撮れるとか、こんなことができるとか、毎回大風呂敷を広げて行かせてもらえるよう会社を説得しています(笑)。

なので仕事に対してはやはりプレッシャーはあります。何回も行っているので、いままで自分がやってきたことを越えなければなりません。でも正直、単純に “行きたい!” という想いもありますね。

第45次南極観測越冬隊のときははじめての南極だったので、わからないことも多かったのですが、観測隊の活動をはじめ、観測内容、隊員や隊員を支える人たち、とにかくそこでのすべてが取材対象で、毎日報道していました。

昭和基地だけではなく、そこから1,000キロメートル離れた「ドームふじ」へ行くメンバーにもなり、食料の担当をしながら氷床掘削の取材記事も書きました(氷床掘削は2007年に最深部となる3,035mの氷の掘削に成功し、最深部は約72万年前。表面からそこまで72万年分の氷を分析すると、当時の気候など、地球の過去がわかる)。

2回目の第51次夏隊では、昭和基地から600〜700キロメートル離れた標高1,000〜3,000メートル前後の山が連なるセールロンダーネ山地隕石探査を行ないました。1ヵ月半くらい、ずっと氷の上で生活しながら隕石を拾い集めます。隕石は宇宙を知る手がかりであり、太陽系の誕生の謎を解くカギでもあるんです。

次の3回目となる第61次南極観測越冬隊は、2回目の昭和基地での越冬です。前回とは違うことをやらなきゃいけないと思っています。ネット環境もよくなっているので、リアルタイムで映像を流すなど、現地からどんどん伝えていきたいですね。

書籍『北極と南極のへぇ〜 くらべてわかる地球のこと』が2019年7月30日(火)に発売! その著書であり、女性新聞記者(朝日新聞)として初めて南極観測越冬隊に同行取材した “極地記者” 中山由美さんに、南極と北極の違い、戦争のない南極、そして地球温暖化、夢の叶え方などについてインタビュー! 中山由美さんは、小学校などで子どもたちにも南極と北極についての講演をしています。
「南極観測船しらせの乗組員、観測隊のお医者さんや調理人さんにも女性は増えています」と中山さん

温暖化の影響、北極に次いで南極も危ない!
極地の調査から、“地球の未来” がわかる!

ー 南極では観測をして地球環境を見ていますが、温暖化の影響を実感されることはありますか?

それは北極の方が顕著ですね。たとえばグリーンランドの氷はどんどん溶けていて、夏には歩いている氷河の上を水が流れていますし、氷河自体もかなり小さくなっています。何年か前まではここまで氷河があったのに、なくなってしまっている。それが露骨にわかります。冬なのに雨が降ったりもしますね。

南極はちょっと前まで「それほど温暖化の影響はないね」なんて言っていましたが、「いや、そうでもないよ」というのが、少しずつ現れはじめています。なので、これから本当にしっかりと見ていかないと、大変なことになると思っています。

ー 南極での観測によって地球の過去を探り、いま起きている変化を捉えれば地球の将来が見えるそうですが、どのような将来、未来が見えていますか?

このまま人間がやりたいことをやっていると、まずいでしょうね。いまだに核兵器などがなくならない状況ですから。

いまは多くの人が廃プラスチックの問題などにも関心を持っていたり、電力も原発の代わりに風力や太陽光などの自然エネルギーをもっと活用しようとか、宇宙で太陽光発電をして地球に持ってこようとか、いろいろな考えも出ていて、とてもいいことだと思っています。

でもその前に、なぜ電力やプラスチックを使わないことをもっと一生懸命にやらないんだろうと思うんです。まずは使わないことなんですが、工業とか生産とか、いろいろな経済を動かしていかなきゃいけないからという、やっぱり人間の “我” がそこにあると思うんです。「地球環境のため」「私たちのため」と言いながらも、使ってしまっている。人間って難しいですよね。私だって今ここで、「冷房を切りましょう」となったら困りますし(当日は最高気温34.9度)、飛行機に乗るのをやめようとは言えません。

『キッズイベント』のインタビュー「子どもの夢の叶え方」で、南極、北極についてのお話をしてくれた、女性新聞記者(朝日新聞)として初めて南極観測越冬隊に同行取材した “極地記者” 中山由美さん。2019年7月30日(火)に、書籍『北極と南極のへぇ〜 くらべてわかる地球のこと』を出版
地球の未来について「このまま人間がやりたいことをやっていると、まずいでしょうね。使わないことをもっと一生懸命に、できることから行動しないと」と中山さん

生きるのに必要な環境を破壊したら
破滅の道しか残らない

ー 南極では水がとても貴重ですよね。そういうところからも資源の大切さを実感しますか?

南極や北極に限らず、山やキャンプでも同じですよね。水を汲んできて、その水だけで料理や洗いものなどのすべてをまかなおうとすると、無駄遣いしないですよね。

山や海、キャンプに行くと自分で必要なもののすべてを運ばないといけないし、ゴミは持って帰る。でも本当は、社会や国のレベルでもそれは同じなんです。でもお金を払っていれば、誰かが水も電気もガスも届けてくれる。ゴミも始末してくれる。自分でやっていないから実感がないんですよね。

ー 中山さんも日本に帰ってくると、水の有り難みは南極にいるときよりも薄れますか?

それはありますね。やはり「シャワーって水を出しっぱなしにしてもいいんだ、水を流せるんだ、ありがたい! 快感!」って、嬉しくなります。でも節約やリサイクルはしようと、たとえば牛乳パックはリサイクルに出したり、大変な思いをしないレベルで、みんながちょっとずつやれば75億人だからそれだけでも全然違う。ほんのちょっとずつが山になるから、それでいいんじゃないかな。極端なことは難しいと思うんですよね。

おかしいですよね。福島の原発事故のあと、深夜に自動販売機や照明を落としても普通に生活も社会もまわるってみんな実感したのに、何年か経つと忘れちゃう。災害の危険は何も変わっていないのに、なんで忘れちゃうのかな。そのときだけではダメなんですよね。

ー 地球の未来を守っていくのは、一人ひとりの意識とちょっとした行動なんですね。

意識というほど大げさなものじゃなくて、結局、人間って地球、自然に生かされているわけじゃないですか。野菜だって動物や魚の肉だって、すべて自然から命をいただいて私たちは生きているのであって、自分たちが生きていくために必要な環境を壊していたら破滅の道しかありません。とてもシンプルなことです。

「地球を守ろう」って実はとても大げさで、地球って人間ごときが守ってあげなきゃならないほど柔じゃない(笑)。勝手に100億年くらい生きるわけです。そうじゃなくて、自分たちが生かされている環境を、自分や生き物が住みやすい、生き続けられる環境にしていかないと、結局困るのは自分たちでしょ、という話ですよね。

書籍『北極と南極のへぇ〜 くらべてわかる地球のこと』が2019年7月30日(火)に発売! その著書であり、女性新聞記者(朝日新聞)として初めて南極観測越冬隊に同行取材した “極地記者” 中山由美さんに、南極と北極の違い、戦争のない南極、そして地球温暖化、夢の叶え方などについてインタビュー! 中山由美さんは、小学校などで子どもたちにも南極と北極についての講演をしています。
地質研究者が、「たかだか数百万年の歴史しかない人類が “地球を守る” なんて奢りですよ」と言っていました(笑)

昔の生活には戻れない
私たちにできること、子どもたちに託すこと

ー 書籍の最後の方で、北極に住んでいる日本人の大島さんが「次の世代は猟では生活できない」とおっしゃっています。そして「便利で快適なことを追い続けてきた私たちは、地球環境を汚して、壊してきました。もう一度、北極の先住民のような「自然とともに生きる」すべを思い出さなければならないとき」と書かれていますが、便利さ、快適さを追求する流れは止まりそうもありません。どうすればいいと思われますか?

まさしくそれを、これからの子どもたちや若い人たちに考えてほしい(笑)。昔のように暮らせば環境に負荷は与えないけど、急に縄文時代の暮らしには戻せない。じゃあ、このなかでこれからどうしていくのがいいかは、子どもたちや若い人たちに見つけてほしいですね。

ー そうすると、いまの親世代にはどういう役割がありますか?

人間はいろいろな命でもって生かされているんだっていうことに、改めて気がついてもらいたいですね。

そして、もらった知識だけでは “考える” ということをしていないので、親世代の人たちは、子どもたちに何かを考えたり、始めたり、行動するきっかけを与えてほしいですね。悩んだり、つまずいたりを経て何かを見い出すということを、子どもたちや若い人たちができるようにしてほしい。

子どもたちに「教えよう」じゃなくていいんです。大人だってわからないことはたくさんあります。答えられなかったら、わかったようなことを言うのではなく「考えてごらん」「一緒に調べてみよう」でもいいです。

書籍『北極と南極のへぇ〜 くらべてわかる地球のこと』が2019年7月30日(火)に発売! その著書であり、女性新聞記者(朝日新聞)として初めて南極観測越冬隊に同行取材した “極地記者” 中山由美さんに、南極と北極の違い、戦争のない南極、そして地球温暖化、夢の叶え方などについてインタビュー! 中山由美さんは、小学校などで子どもたちにも南極と北極についての講演をしています。
子どもたちの発想には本当に驚きます。大人になるにつれて失ってしまうので、その感度の良いときに、いろいろな体験をしてほしいですね

ー 子どもに調べてもらって、教えてもらうのでもいいですよね。

大人なんて、実は大したことないですからね(笑)。講演が終わって質疑応答になると、大人の質問はほぼ想定内です。以前質問されたことばかりで、驚きがありません。

でも子どもの発想や視点はとても豊かで、大人の想定を越えた質問が飛び出します。しかもちゃんと説明しようとすると、いろいろなことを理解していないと答えられないんです。だからそこに、新しいことを考える、知りたくなる、調べたくなる鍵がたくさん隠されています。

この子どもの能力って本当にすごいなって思います。大人はもう、そういう感度をなくしていますよね。その感度の鋭い時期に、いろいろなことに首を突っ込んで体験してほしいですね。




ー 今まで一番驚いた子どもの質問は何ですか?

「南極には匂いがあるんですか?」という質問にはハッとさせられましたね。たとえば豚舎や牛舎って臭いことが多いけれど、それは生物が豊かに暮らしているからです。南極はとても生物が少ないので、あまり匂いがないんです。南極でも内陸にある「ドームふじ」周辺なんて寒すぎて生物がいません。日本で普通に生活している小学生が、この質問をしたのはすごい、よくそういうところに感度が働いたなと思いました。

ー 本を読んだ子どもたちが将来、南極や北極に行きたいと思ったとき、いま、どんなことをしておくといいですか?

身近なところにも不思議なことってたくさんあるので、実際に体を動かしながら観察したり考えたりして、自分で興味のあることを発見してほしいですね。アリを見ても、セミをつかまえるのもいいし、空の星、雲でもいい。ちょっと気になったことを見逃さず、興味を持ったこと、好きになったことにグングン入り込んでほしいですね。

書籍『北極と南極のへぇ〜 くらべてわかる地球のこと』が2019年7月30日(火)に発売! その著書であり、女性新聞記者(朝日新聞)として初めて南極観測越冬隊に同行取材した “極地記者” 中山由美さんに、南極と北極の違い、戦争のない南極、そして地球温暖化、夢の叶え方などについてインタビュー! 中山由美さんは、小学校などで子どもたちにも南極と北極についての講演をしています。
「南極と北極、どこが違いますか?」と聞かれることが多いのですが、私としては違うところばっかりがたくさん出てきます。違いを知ることで、南極や北極がどんなところか、生き物たちはどのように生きてきたか、歴史や地理、気象などに興味が出て、いろいろなことが見えてくると思います

夢に向かって歩けば、何かが起こる
これからも、極地からいろいろなことを伝えたい

ー ところで、南極や北極で命の危険を感じたことはあるのですか?

南極はほぼないです。研究者や現地に住んでいない人間が南極や北極で活動するには ”安全係数” を高くしているんです。危なくないように、細心の注意をはらって計画し、無理なことはしませんから。

だから一番大変だったのは、なんと言っても大島さんと犬ぞりで北極を旅したときです。南極は2回、北極もグリーンランドやノルウェーのスヴァールバル諸島にあわせて7回ほど行きましたが、いずれも研究者たちに同行した取材だったんです。でも大島さんの犬ぞりの旅だけは違いました。大島さんは現地に住んでいる猟師で、体を張って、命をかけて猟をしています。安全性を最優先しているわけにはいかないんですね。

だからそのとき初めて凍傷になりましたし、犬ぞりの犬が3匹クレパスに落ちちゃったり、ものすごい体験をしました。もっとたくさんの犬が落ちたり、そりまで落ちて、ひきあげられなかったら、そこでおしまいでしたね。シロクマにも会いました。食べちゃいましたけど(笑)。だからそこに暮らしていない人間が観測に行っているのと、命を張って暮らしている猟師とでは、安全係数が違い過ぎますよね。一歩間違えれば危なかったし、でも「すごい!」と思った。とてもドラマチックで、忘れられないですね(笑)。

書籍『北極と南極のへぇ〜 くらべてわかる地球のこと』が2019年7月30日(火)に発売! その著書であり、女性新聞記者(朝日新聞)として初めて南極観測越冬隊に同行取材した “極地記者” 中山由美さんに、南極と北極の違い、戦争のない南極、そして地球温暖化、夢の叶え方などについてインタビュー! 中山由美さんは、小学校などで子どもたちにも南極と北極についての講演をしています。
シロクマのお肉は脂がたっぷり。でもちょっと硬かったそうです。また毛皮のズボンなど、先住民の伝統衣装をつくるのだそう

ー 中山さんの今後の目標、夢は?

まだまだいろいろなところ、極地に行って、みんなが「へぇ〜」って思うことを見つけたいですね。そしてお話でも、写真でも、映像でも、いろいろな形でそれを多くの人に伝えていきたいです。

ー 極地というと、宇宙にも行ってみたいですか? 宇宙旅行も現実味を帯びてきています。

宇宙にも行きたいですが、すごく行きたいかと言うと、たとえば宇宙に一瞬行けるのと、南極で越冬するのとどっちがいいかとなると、南極越冬の方がいいですね。

宇宙の無重力や宇宙から地球を眺める体験は絶対にしてみたいですが、宇宙空間では、どうしても宇宙船の窓や、宇宙服越しに地球や宇宙空間を体験するしかないですよね。

南極や北極って、寒さや風の冷たさ、太陽の温もりを実際に肌で感じることができるんです。“そこにいる自分” というのを実感できる。そういう体感が楽しいんですよね。

ー 宇宙に行って人生観が変わったという宇宙飛行士はたくさんいますが、南極、北極に行く前と行ったあとで、自分自身で大きく変わったことはありますか?

仕事が “極地記者” になってしまいました(笑)。そういう意味では変わりましたが、考えてみると自分自身の根っこのところはずっと同じなのかなと思います。子どものころ、冒険ファンタジーやありえない世界に飛び込んでいく話にワクワクして、大人になると一人旅が好きで東北や北海道、そのうち海外に行きはじめ、行ってみたい、体験してみたい、こんなことをやってみたいと、山に登ってスキーをして、海に潜ってパラグライダーもして、その延長がいまの極地になっているという感じですね。

ペンギンの帽子をかぶり、「ペンギンおねえさん」となった中山由美さん。小学校など子どもたちへの講演では、こんな姿も?(『キッズイベント』インタビュー「子どもの夢の叶え方」より)
小学校など子どもたちへの講演ではペンギンの帽子をかぶって話しをすることも。南極や北極の楽しく「へぇ〜」って驚く話をしてくれる「ペンギンおねえさん」です

ー 小さい頃の夢が叶っていくというのは素晴らしいですね。

夢が叶うというか、南極や北極に行くことをめざしていたわけではなくて、最初に外国語を勉強しはじめたのは、通訳になりたいと思っていたんです。英語やドイツ語の勉強のために留学もして「がんばるぞ!」と思っていましたが、そこには帰国子女もいて、これは太刀打ちできない、勉強しても限度があるなと、そこで「うっ!」って思うんですよね。だから語学はひとつの武器として、いろいろなところに行ける仕事がしたいなと、それで新聞記者になってみたらおもしろかった。

記者になってからは海外特派員を夢見ていたんですが、ある日突然、海外は海外だけど南極へ行けとなって。そこでまた道を外れるんです。最初にめざした通訳から記者になって、記者から海外特派員ではあるけれど極地記者になって。でも、一番おもしろいところに、いま自分はいるなと思うんですよね。

「通訳の夢は叶わなかった」と思うよりも、みんなも「サッカー選手になりたい」とか、いろいろな夢があると思うけれど、それがダメとなったときに、違う方向を見つけて、そっちの方がおもしろくなったり、新しい夢を見つけたり、いろいろと道はあると思うんです。

だから「やりたいことが見つからない」「夢がない」という人がいるけれど、それは “動いていないから” というのもひとつの要因かもしれない。動いていればいろいろなことにぶつかるし、夢に向かって歩いていたらコケて、立ち上がったら違う方向にもっとおもしろそうなことがあったとか、それはすごくあると思う。私みたいに懲りずに前向きに考えていたら、何かが転がっているんじゃないかな(笑)。

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【プレゼント】インタビューした “極地記者” 中山由美さんの書籍『北極と南極のへぇ〜 くらべてわかる地球のこと』をプレゼント!

『キッズイベント』のインタビュー「子どもの夢の叶え方」で、南極、北極についてのお話をしてくれた、女性新聞記者(朝日新聞)として初めて南極観測越冬隊に同行取材した “極地記者” 中山由美さん。2019年7月30日(火)に、書籍『北極と南極のへぇ〜 くらべてわかる地球のこと』を出版中山由美

朝日新聞記者。極地記者。ドイツ・チュービンゲン大学留学、1992年、東京外国語大学大学院修士課程(ドイツ語学専攻)修了。1993年朝日新聞社入社。2003年11月〜2005年3月まで第45次南極観測越冬隊に、2009年11月〜2010年3月まで第51次夏隊セールロンダーネ山地地学調査隊に同行。そして2019年11月27日(水)に出発する3度目の南極「第61次南極観測越冬隊」への参加が決定! 北極はグリーンランドやスバールバル諸島など7回、パタゴニアやヒマラヤの氷河も取材。2002年度、2012年度新聞協会賞、科学ジャーナリスト賞2012受賞。著書に『こちら南極 ただいまマイナス60度』『南極で宇宙をみつけた!』(草思社)がある。

http://www.asahi.com/antarctica/

北極と南極のへぇ〜 くらべてわかる地球のこと
文・写真:中山由美
学研プラス(2019年7月30日発売)
1,400円(税別)

さて、質問です。「北極と南極、より寒いのはど〜っちだ?」「 氷の量はどちらが多いの?」「どんな動物がいるの?」など、実は知らないことがいっぱい! そしてふたつの極地を比べてみると、似ているようで違うところがいっぱい!

著者の朝日新聞記者である中山由美さんは、小学校などで講演するときに、子どもたちに聞くそうです。みんなよくわからなくて盛り上がるそう。

どちらが寒いかはもちろん、その理由を小学生にもわかりやすく説明してくれるのが本書。北極代表のホッキョクグマくんと、南極代表のアデリーペンギンちゃんに案内されながら、楽しく読み進めていくと、とても遠い存在だった「極地」が、自分たちの身近な問題に関わっていることがわかってきます。北極・南極の素晴らしさにふれながら、地球のことを見つめよう!

インタビュー後記

南極と北極の楽しい話をたくさんしてくれた中山さん。お話している姿から、本当にこのお仕事が好きなんだなと感じました。しかし、越冬の場合は1年4ヵ月もの長きにわたり、南極に30名ほどで暮らします。人間関係のトラブルもあることでしょう。

「小さいグループほど、そして関係が近いほどぶつかりやすいんですよね」と中山さん。昭和基地より、少人数での長期の野外活動の方が対立が起きやすかったそうです。学校なども似ていて、同じ地域に住み、世代もクラスなども同じ少人数ほど関係は難しくなりがちで、年齢が離れていたり、興味が違うとか、異なる部分が多い人との間ではトラブルが起きづらいと教えてくれました。

さらに「私は我慢ができなくなったときは、日本にいる、南極にいる人のことや人間関係をまったく知らない人にメールで愚痴っていました。グループ内だと顔を合わせて何かを一緒にやっていく人たちだし、愚痴を不快に思う人もいるでしょう。それは学校でも会社でもよくないですよね。だから、まったく相手のことを知らない第三者に『こんなことがあって大変!』って、はき出すことかな。人の悪口はいわないのが一番。特にその人を知っている人、仲間うちではダメ」と、コツを伝授してくれました。

他の人がしたことのない経験をたくさんしているためか、何を聞いても答えを持っているし、しかもすべてがおもしろい。ぜひまたお話を聞かせてください。そしてまた極地へ取材に行った際には、現地からのレポートも楽しみにしています。子どもに負けない、想定外の質問を考えておきます!

インタビュー後記 追加

中山さん3度目の南極となる、第61次南極観測越冬隊への参加が決定しました。おめでとうございます! 2019年11月27日(水)には日本を出発されるそうです。くれぐれもお体に気をつけて、そしてたくさんのレポートをお待ちしています! 現地から、そして帰って来てから、ぜひまたお話しお伺いさせてください!(2019年11月7日[木]追加)