
小さいときの思い出を目に触れる場所に置くことで、親子の絆がより深まる
ー 「ロンパースベア」は、どのような“ぬいぐるみ” ですか?
株式会社エンパシージャパン 代表取締役 渡辺香代子さん(以下、渡辺さん):赤ちゃんのときに着ていたつなぎのベビー服、日本では「ロンパース」と呼んでいますが、ロンパースを2着お客様から送っていただき、その生地を使ってつくる、高さ約25cm、重さ約120gほどの世界でひとつだけのクマのぬいぐるみのことです。
お子さんが赤ちゃんの頃、毎日着せたり洗ったりした、愛情のたくさんつまった想い出のロンパース。着られなくなっても大切に保管されている方は多いと思いますが、いつも家族の目に触れる場所に置くことで、親子の絆を深めることができるのではないか、「ロンパースベア」を見た瞬間に、お母さん、お父さんは「子どもを大切に育てた」優しい気持ちを、お子さんは「大切に育てられた」温かい気持ちを実感できるのではないかと思って、つくりはじめました。
また1歳のお誕生日ってとても記念すべき日ですが、何をあげたらいいのか悩んでいる方は多いので、“1歳の誕生日には思い出深いロンパースを使ったクマのぬいぐるみ「ロンパースベア」をプレゼントする”、という文化をつくっていきたいな、とも思っています。

ー 何がきっかけで「ロンパースベア」をつくろうと思われたのでしょうか?
渡辺さん:2012年に「エンパシージャパン」という会社を立ち上げたとき、人が社会の中でたくさんの人と関わりながら生きていくなかで、相手を認めたり、認められたり、弊社の社名でもある“エンパシー(共感)” という概念を、どのように社会に浸透させていくことができるかな、と考えていました。
あるとき社会の最小単位って「親子」で、誰もが生まれてきたことを誰かが喜んで、お世話をしてくれて、親やまわりのサポートがあって大きくなっています。それらの象徴的なものが「ロンパース」で、お世話をされ、愛されてきたという自分の原点や存在価値を見失うことなく、さらには継承されていくものをロンパースの生地を使って形にして残すことができないかと考えたときに、生地なので“ぬいぐるみ” がいいかなと思ったんです。
最後の最後で、これ以上ない人との奇跡的な出会い
ー “ぬいぐるみ” づくりは経験があったんですか?
渡辺さん:いいえ。“想い”と“情熱”だけの、まったくの素人でした。最初は布を買ってきて自分で試行錯誤していましたが、近所に手芸が趣味のご夫人がいらっしゃることがわかったので、お願いして第1号をつくってもらいました。そしてこれを商品化するにはどうしたらいいか、最初は世の中に“ぬいぐるみ” はたくさんあるので、この想いに共感してくれる人がいればできないことはないだろうな、と思っていました。
それでネットはもちろん、全国の縫製工場に足を運んで、第1号を見せながらこういう“ぬいぐるみ” をつくりたいと説明してまわりました。復興支援にもなればと東北にも行きました。でも、どこからも良いお返事をいただけませんでしたし、多くの専門家の方と話をしているうちに、1体1体を手づくりでオリジナルをつくるのは無理なんだなという現実を知っていくわけです。
もう本当に無理だと思って、最後に手芸を扱っているサイトの「お仕事募集」のコーナーに投稿したんです。そうしたら、ひとりお返事をくれたのが、今、隣に座っている浅田さんだったんです。

ー 浅田さんはたまたまその書き込みを目にしたんですか?
株式会社エンパシージャパン ロンパースベア事業部 制作・総合監修 浅田祐規子さん(以下、浅田さん):私はフリーランスで“ぬいぐるみ” を制作する仕事をしていて、そのときちょうど縫子さんを探しに、そのサイトを見ていたんです。そうしたら「お仕事してください」というのがあって、大量生産のぬいぐるみのサンプルをつくってほしいとか、そういうのだったらできるかなと思ってメールを送ったんです。それが出会いですね。
ー まさか1体1体オリジナルでつくるとは思わなかったんですね。
浅田さん:それはもう開けてビックリでした(笑)。
ー 大変というのがわかっていながら、なんでやってみようと思われたんですか。
浅田さん:私はずっと玩具メーカーにいて、ぬいぐるみの企画と制作をする部署にいたのですが、玩具メーカーでも、毎回「オリジナルのぬいぐるみ」という企画は出ていて、やっぱりみんなやりたいんですよね。制作する人たちはつくりたい、でも会社としてはコストが合わないということで却下されてしまう。それがずっと続いているんです。
だからエンパシージャパンという会社が1体1体をオリジナルをつくりたいと声をあげているのを見て、ちょっとやってみたいなと思って。最初に個数を聞いたら100個だったので、それなら正直、利益にならなくても想いは満たされるし、1体1体を手づくりでオリジナルというのはやっぱり魅力があって、やりたい! やろう! と。
ー 100個じゃ収まらなくなっていますが、後悔していませんか(笑)?
浅田さん:(笑)。でも私も渡辺さんの想いと同じで、小さい頃から、辛いことや悲しいことがあっても「自分は大丈夫!」という変な自信があって、それは何でだろうと思うと、すごく愛されてきたという記憶や感覚があるからなんですよね。それを形にしようとしているこのプロジェクトは、やらなくちゃいけないと、なんとか実現したいと進めてきました。

ー 浅田さんとはネットで知り合ったわけですが、渡辺さんは、そこには不安はありませんでしたか?
渡辺さん:東京にお住まいと聞いて「すぐに会える!」という想いの方が、不安より強かったですね。今と同じこの場所ではじめてお会いして、ご覧の通り「品のある素敵な方だな」というのが第一印象でしたが、どのような仕事をされるかは話をしただけではわからないですよね。だからやっぱり不安はありましたよね。
でも浅田さんが「たぶんお手伝いできると思います」と言われて、最後にお名刺をくださったんですが、その名刺に今までつくった作品も印刷されていて、そうしたら、あの「しまじろう」が “うわっ!”て出てきて。「えっ! しまじろうをつくっている人!?」って、ものすごい衝撃でした。
浅田さん:私の仕事って名刺だけだとよくわからないので、広げるとパンフレットになっていて、そこに作品を掲載していたんです。
渡辺さん:浅田さんは「しまじろう」を初代からずっとつくっている方だったんです。こんな出会いがあるんだなって、とても不思議に思いました。

お客様のお洋服がとにかく愛おしい
自分の子どもにつくっているような気持ちで
ー 子どもが生まれたときと同じ身長と体重のクマのぬいぐるみをつくってくれるサービスがあって、私の家にはそのぬいぐるみがいます。新生児と同じ体重なので意外と重くて、小さな子どもが一緒に遊ぶというものではないのですが、ロンパースベアならいつも一緒にいられそうですね。
渡辺さん:常に一緒にいる、一生もののぬいぐるみになって欲しいなと思っています。おじいちゃん、おばあちゃんになっても、「実はこの服、赤ちゃんのときに着てたんだよ」という話が孫にできる、その人のストーリーがぬいぐるみに詰まっていくような、ある意味、“文化事業”をしたいなと思っています。
だからお客様のオーダーは極力叶えてあげたくて、仕事だからここまでしかできないではなく、親心のような気持ちも感じさせてもらっています。お客様の99%以上の方が大満足という結果をいただけていることからも、そういう部分はお客様に伝わっているのかなと思っています。
浅田さん:玩具メーカーにはお客様の評価ってあまり返ってこないんです。返ってきても要望やクレームが多くて‥‥。
今、ロンパースベアは、私と同じ玩具メーカーを退職した、すごい技術を持っている方々に声をかけて一緒につくっています。お客様から届いた生地を私がある程度デザインをして、ここにこの生地を使ってほしいと伝えるのですが、「ここはもっとこうした方が可愛くなるよ」とか、みんな少しでも良くしようと考えています。送っていただくロンパースが、お客様のお洋服なんですけど、とにかく愛おしいんですよね。お母さんになっている方も多いので、お客様の気持ちがよくわかるというのと、メーカーでは得られなかった、お客様からの声が嬉しいんです。
渡辺さん:みんな自分の子どもにつくっているような感覚なんです。ロンパースベアはまだまだとても小さなプロジェクトですが、“社会全体で子どもたちを育てる”というコンセプトもあって、チームにはそれがちゃんと伝わっていて、その想いもロンパースベアに託しています。ロンパースベアを通して、その想いも社会に広がるといいなと思っています。

シミのついたロンパースに感動!
未来をイメージして「ロンパースベア」をつくる
ー お客様が「ロンパースベア」をつくる背景を知ることも多いと思うのですが、特別な想い入れなどは出てきますか?
浅田さん:そうですね。私も娘のロンパースをとっておいてあったので、最初、それを使って何点か試作品をつくったんです。そうしたら娘が私のアトリエに入ってきたときに、もう高校生で、照れもあるし、あんまりちゃんとは言わないのですが、「私これ着てたよね」って言うんですよね。で、「ふぅん、こういうのつくるんだ、いいじゃん」とか。子どもも、そうやってロンパースベアを受け入れてくれるんだなと思って。
だからロンパースベアを受け取ったお子さんが大きくなったときに、「自分のためにつくってくれたんだな」「自分のことを想ってくれていたんだな」というふうに想ってくれるだろうという未来を勝手にイメージして、より良いものをつくりたいって思っています。
ー 印象に残っているロンパースベアはありますか?
渡辺さん:未熟児で生まれ1年間入院していたお子さんが今ではとても元気になって、でもその1年を忘れないようにつくります、という方もいらっしゃいましたし、結婚式で娘さんにプレゼントする親御さんもいらっしゃいました。男の子が4人いて、全員で着回したお洋服でロンパースベアをつくった方もいらっしゃいます。お子さんたち全員がロンパースベアを囲んでいる写真を送ってくださって、まるでロンパースベアが5人目の兄弟みたいでした。
浅田さん:最初は、こういうのを依頼されるお客様はブランド物のお洋服を送ってくるのかなと思っていたら全然違って、中にはかなりシミのついたお洋服が送られてくることもあります。本当に思い入れのあるロンパースを送ってくださっているんだなって、とても感動しました。
シミのついた部分を使っていいかは一応お客様にお伺いしてからつくるようにしていて、どのお客様も取り返しのつかない一点ものを送ってくださっているので、生地をとるとき、最初はハサミを入れるのに手が震えました。

親と子どもは違う。「ロンパースベア」を見てクールダウンすることも
ー 浅田さんは、小さいころからお裁縫などが好きだったんですか?
浅田さん:もともとは絵を描くのが大好きで、外に遊びに行くより家で絵を描いたり、何かをつくったり、小さい頃から「大きくなったら何かつくる人になる」と言っていましたね。
私の親は物を買い与えてくれる方ではありませんでしたが、高校は芸術系、大学は美術大学、そして東京に行きたいというときも行かせてくれて、やりたいことには賛成してくれました。自分が親になってわかったのですが、子どもの考えに理解を示して優先してくれたのは、本当にあっぱれな子離れだなと、私もかくありたいと思っています。ひとり娘で手放すのが惜しいですが、でも手放します。どんどん行ってくださいって(笑)。
ー お子さんはやりたいことは決まっているんですか? 高校生になると文系か理系か進路を選ばなくちゃいけなかったり、やりたいことが見つかっていない子どもは悩みますよね。高校生のときに何をやりたいかなんて、私は決まっていませんでした。
浅田さん:小さいときは絵を描くことが好きで、私と同じ方向に進むのかなと思っていたら、そうじゃなかったみたいです。「美大おもしろいよ」と、さりげなく誘導していたのですが、高校2年生のときに「私、美系には進まないから」ってハッキリ言われて、自分とは違うんだなって実感したことがあります。「ママみたいに小さい頃から何かが好きで、そうなりたいって思っている子なんてまわりにいないよっ。私は大学に行ってから決めるから!」って。
娘とケンカになるともう口ではかなわなくて、そうすると私はアトリエに籠っちゃうんですけど、アトリエに娘の着ていたベビー服でつくったロンパースベアがあって、それを見るとちょっとクールダウンするんですよね。こういう時期もあったのにって。可愛かったなぁって。
渡辺さん:それがロンパースベアの役割のひとつです(笑)。
ー ロンパースベアって、子どもの成長に合わせて子どもと親の間を行ったり来たりして、最終的に子どものところに落ち着くという、おもしろい“ぬいぐるみ” ですね。
渡辺さん:そうやって親子のストーリーがロンパースベアにつまっていくといいですね。そして代々つながっていくと嬉しいです。もらった子どもが大きくなったら自分の子どもにつくってあげてって、そうなると素敵ですね。

1歳のお誕生に「ロンパースベア」を贈る“文化”を
ー ロンパースベアの今後の展開はどのようにお考えですか?
渡辺さん:1歳の誕生日に、ちゃんと思い出に刻まれるものとして贈るプレゼントとして、習慣というか「1歳のお誕生部にはロンパースベアを贈る」という文化にしていきたいと思っています。
1歳の誕生日は、どのご家庭でもお祝いすると思うのですが、何をあげたらいいのかわからないという声をよく聞きますし、まだプレゼントを喜ぶ年齢でもありません。でもとても記念すべき日ですよね。こいのぼりや兜、ひな人形にはちゃんとストーリーや想いが込められています。ご両親の想いがこもったロンパースベアが、どのご家庭にもひとつはあるものにしていければなと思っています。
海外での販売も考えてますが、それと平行してロンパースベアをつくる体制も整えていきたいと思っています。まずはアトリエを持ちたいですね。女性は結婚によって仕事や人生が大きく左右されてしまう部分があります。子育ての時期は休まなきゃいけないとか、そういうことを解消できるアトリエがあって、子どもがいても2時間だけでも働けるとか、つくり手の持つ日本の文化や技術も守っていければいいなと思っています。そういう体制を整えながら、海外からもご注文いただけると嬉しいですね。
日本国内では年間100万人ほどが出生しています。もし100万人全員がロンパースベアをつくってくれるようになったら、今よりも格段に優しい社会になるんじゃないかと思っています。児童養護施設とか、自分の生まれた境遇を背負わなければならない子どもたちもいるので、そういう子どもたちの支援をしたり、隣の子も、自分の子どもとして考えられるような全体のスキームを、ロンパースベアを通して事業としてつくりたいと思っています。

ロンパースベア
想い出のベビー服(ロンパース)を使ってつくる世界でたったひとつのぬいぐるみです。常に身近に置いておくことで、「ロンパースベア」をふと見た瞬間、お母さん、お父さんは“お子さんを大切に育てた優しい気持ち”を、お子さんにとっては“大切に育てられた温かい気持ち”を実感できる、親子にとって大切な絆を深める、そんなコンセプトでおつくりしています。
ロンパースベアは、実際にお子さんが着ていたベビー服を使って一点一点ていねいに手づくりしています。大人になってもずっと一緒にいられるプレゼントとして、記念すべき1歳の誕生日プレゼントや出産祝いに選ばれています。
インタビュー後記
「ロンパースベア」が親子の絆はもちろん、多くの人と人、社会ともつながり、より良い世の中にしていくという願いが込められているというのは、とても共感できるものでした。手前味噌ながら『キッズイベント』も、親子が一緒に遊んで楽しむことが、これからの世の中を良くしていくと思い、親子が楽しめるイベントなどの情報を提供しています。
そして何より、渡辺さんと浅田さんの出会いと、同じ想いで「ロンパースベア」に取り組んでいるのが素晴らしく、またとても羨ましいものでした。なかなかそんな出会いはありません。まさに奇跡の出会い。そしてその奇跡を引き寄せたのは、渡辺さんの強い想いと行動力なんですね。
「ロンパースベア」に対する想いは『キッズイベント』にもバッチリ伝わりました。ひとりでも多くの方に知っていただくお手伝いができれば嬉しいです。
渡辺香代子(わたなべ かよこ)
株式会社エンパシージャパン 代表取締役。短大卒業後、大手広告代理店、マーケティング会社、放送局勤務を経て、海外翻訳書籍を中心とした出版社で広報・PR部門を担当。「ホーキング未来を語る」「きみに読む物語」「サティスファクション」などを手がけ、ぞれぞれ30万部以上を売り上げる大ヒット作に導く。2003年独立。広報・PR会社を立ち上げ、周囲を巻き込む独特な手腕と、丁寧なコミュニケーションで数々のクライアントを担当。2012年、株式会社エンパシージャパンを設立し、以前から温めていた「ロンパースベア」の企画に着手。現在、「企業のCSR活動支援事業」や「算数オリンピック団体戦」など、多数の事業も進行中。
浅田祐規子(あさだ ゆきこ)
株式会社エンパシージャパン ロンパースベア事業部 制作・総合監修。アトリエ浅田 主宰。玩具メーカーに勤務後、1997年独立。ぬいぐるみの企画、制作、開発、生産までの一連を行えるアトリエ事務所を立ち上げる。各企業のキャラクターから個人のオーダー品までクライアントに寄り添って妥協なく作品に反映することを目指す。手がけた主な商品に株式会社ベネッセコーポレーション 子どもちゃれんじの「しまじろう」ハンドパペットの初代からの開発、制作。エデュトイシリーズの制作。偕成社「あかちゃんのあそびえほん」きむらゆういち先生のオリジナルパペットシリーズ等他多数。2013年、株式会社エンパシージャパン代表 渡辺との出会いにより、ロンパースべア・プロジェクトに参画。