2026年7月11日(土)から開催! いきものの驚きの生存戦略が大集合!

いきものの進化は “おもしろすぎる!”「いきもの超ワールド展」総合監修・田島木綿子先生に聞く、驚きの “生存戦略” と “多様性” のすごさ。『ダーウィンが来た!』とのコラボの魅力も!

特別展「いきもの超ワールド展 国立科学博物館×ダーウィンが来た!」総合監修・田島木綿子先生インタビュー!
特別展「いきもの超ワールド展 国立科学博物館×ダーウィンが来た!」で総合監修を務める田島木綿子先生にインタビュー!

“いきものの生存戦略” をテーマにした特別展「いきもの超ワールド展 国立科学博物館×ダーウィンが来た!」が、2026年7月11日(土)から開催! 国立科学博物館が有する標本や最新の研究成果に加え、NHKの自然番組『ダーウィンが来た!』が撮影してきた大自然を生き抜くいきものたちの迫力の映像を用いて驚きと感動の世界を紹介する特別展。今までにもさまざまな特別展の監修を務めてきた国立科学博物館 動物研究部 脊椎動物研究グループ 研究主幹の田島木綿子先生が総合監修を務めます。インタビュー中でもストランディング(海棲哺乳類の漂着)の連絡が入れば即座に対応するという田島先生。まさに現場の最前線で活動する研究者の目線から、今回、6つのチャプターを決めた経緯、いきものの多様性、『ダーウィンが来た!』との共同企画、推しの展示物、そしていきものの研究者になるには? などについてお伺いしました!(インタビュー:2026年4月24日(金)/TEXT:中村実香/編集:キッズイベント/PHOTO:大久保景)

われわれ人間もいきもののひとつ
『ダーウィンが来た!』の映像
科博の標本の最強コラボ!

― 国立科学博物館の最近の特別展は、「大絶滅展」(2025年11月〜2026年2月)、「超危険生物展」(2026年3月〜6月)、そして今回の「いきもの超ワールド展」と、“いきものの生存” という一連の流れを感じています。

戦略的に考えていたわけではなく、偶然、そういう流れになりましたね(笑)。今回の「いきもの超ワールド展」では、いきものがこれほどまでにたくさん、生き残り戦略の末に多様性を持って存在しているということを、さまざまなテーマに沿って紹介します。

そしてその一端ではありますが、われわれもいきもののひとつであるということも含めて、子どもたちにはいきもののことをたくさん知ってほしいですね。

― NHKの人気自然番組『ダーウィンが来た!』との共同企画になりますね。

NHKさんからお声がけいただき、コラボレーションが実現しました。映像と標本、その両方があると、よりいきものに対しての理解が深まるので、『ダーウィンが来た!』の映像とわれわれの標本という、お互いの強みをコラボできたのは非常に良い関係になりました。

特別展「いきもの超ワールド展 国立科学博物館×ダーウィンが来た!」

いきものを6つのチャプターで紹介!
田島先生自身も新たな発見!
専門家も楽しむ “田島節” 全開の展示内容

― 今回の特別展は6つのチャプター(五感、エネルギー補給、サイズ、移動、集団、命のバトン)で、“いきものの生き残り術” を紹介されます。この6つを選ぶ際の決め手は何だったのでしょうか?

国立科学博物館に足を運んでくださるみなさんの多くは見識が深く知識も豊富なので、専門家だからこそできる情報発信や、「この標本は出したことがない」という初公開のもの、そして『ダーウィンが来た!』の番組からご提供いただく貴重な映像などさまざまな素材がある中で、おもしろいと感じていただけるような6つのチャプターに落とし込みました。

地球上の生命体を5つや6つのチャプターでまとめるのは大変で、「あれも楽しい、これもおもしろい」とテーマは数限りなくありますが、会場の制約がある中での3ヵ月の特別展、「今回はこの6つについて語ろう」としたのは、正解だと思っています。

あと、私が少しひねくれているのか、特別展をやりすぎているのか、ありきたりなことだと自分たちがおもしろく感じなくなっていて(笑)。監修者の癖や好きなところはどうしても出るので、今回はかなり “田島節” を感じられるものになっているかもしれませんね。




― その “田島節” は、具体的にどういうところで感じられますか?

「CHAPTER 1 いきもので異なる『五感』」ですね。私は「人間が食物連鎖の頂上頂点に君臨している」という構図は違うと思うんです。人間も食物連鎖の一員であり、“他のいきものと支え・支えられる関係にある” ということを知ってほしいですね。

そして “五感” というと、私たちは自分たちが持っている「視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚」を基準に考えがちですが、実際にはこれらの一部を持たないいきものもいれば、同じ機能を持っていても、われわれとはまったく異なる世界を捉えているいきものもいます。

たとえば私たち人間(哺乳類)は青・緑・赤の3色(あるいは2色)しか見えませんが、鳥は4色見えますし、真っ暗な夜でも見えるいきものもいます。

味覚についても、グルメという意味ではなく、毒や腐ったものを選別するという “生き残り術” としての本質があります。“偏食” も人間社会では悪いように言われますが、コアラのように他のいきものが食べない毒のあるユーカリを食べることで生き残ってきた戦略もあります。むしろ植物側が、特定の動物だけに食べさせて種を繁栄させる戦略をとっていることもあって、実は植物が一番お利口なんじゃないかという説もあります。

ゾウの鼻は物を巻いたり掴んだりする道具としてのイメージが強いため、その先端に呼吸や匂いを嗅ぐための鼻の穴があることを意識していないかもしれません。一方で、テングザルの場合は先端ではなく、あの長い鼻の内側に穴があります。同じ “長い鼻” という見た目でも、その構造や役割は異なることがあります。

さらに、私たちが当たり前だと思っている “鼻の穴は2つ” という常識も、いきものの世界では例外がいます。ハクジラ類は進化の過程で鼻の穴がひとつになりました。

こうした特徴を知って私が感じてほしいのは、“人間(哺乳類)が特別すごいわけではない” という多様性です。いきものたちの姿かたちは、すべて彼らが厳しい自然界で生き残り、次世代に命を繋ぐために選びとってきた “戦略” の結果にほかなりません。既存の概念にとらわれず、いろいろな角度から彼らを見つめ直してみる。それこそが、この展示で体験してほしい “田島節” の核心かもしれませんね。

特別展「いきもの超ワールド展 国立科学博物館×ダーウィンが来た!」総合監修・田島木綿子先生インタビュー!
「いきもの超ワールド展」では “田島節” たっぷりの展示が楽しめそう。「五感の展示ではスカンクの匂いなども検討しましたが、気分が悪くなる人がいるかもしれないという意見があり、泣く泣くやめました」と田島先生。試行錯誤をしながら準備を進めているそう

田島先生も驚いた!
あえて “動かない” という戦略

― 田島先生自身が、この6つのチャプターの中で新しく発見したことはありましたか?

「CHAPTER 4 いきもので違う『移動』のかたち」で紹介する、“あえて移動しない” いきものがいることですね。海の中にいるサンゴは刺胞動物という動物ですが、固着生物として、あえて移動しないで生きる戦略をとっていると、以前の特別展「海」(2023年7月〜10月)のときに教えてもらい、とても感動しました。

今回は昆虫にも一種類だけ固着するものがいると知って、展示しています。ミカンの後ろにくっついている「カイガラムシ」は、一度ミカンに定着するとまったく動かないで生きていきます。移動しなくても生きていける戦略があるんだなと、改めて感動しました。

― 専門家である田島先生でもまだまだ発見があるということは、一般の方は発見だらけになりそうですね。

そうだといいですが、知識が豊富な子どもたちも多いですからね。でも、知らなかったことがもし発見できれば、自分のジグソーパズルをまたひとつ埋められた、そうやっていきものへの理解を深めていただけると嬉しいですね。

特別展「いきもの超ワールド展 国立科学博物館×ダーウィンが来た!」総合監修・田島木綿子先生インタビュー!
あえて動かない昆虫「カイガラムシ」を知ったとき「私自身もこの展示準備を通して、自分のジグソーパズルのピースをひとつ埋められました」と田島先生

初公開の目玉展示とサイズの不思議
クジラはもとは陸上の四つ足動物
あえて海へと戻った戦略とは?

― 今回の展示の目玉は何でしょうか?

「CHAPTER 3 いきものの挑戦『サイズ』適応術」のところに展示する、アルゼンチンから運んできた国内初公開の「オオナマケモノ」ですね。ほぼ完全復元の全身レプリカです。欧米では一般的かもしれませんが、日本ではこの大きさの展示はなかなかないと思います。

昔は大きかったのに、なぜ今は小さいのか、逆にクジラはカバくらいのサイズから30メートルになったり、ここではサイズによる適応術を紹介します。

国内初公開となる「オオナマケモノ(メガテリウム)」
国内初公開となる「オオナマケモノ」(イラスト ©月本佳代美)。体長は約6メートル、体重は4トンにも達し、現代のゾウにも匹敵するほどの巨体だったそう。田島先生曰く「実際に研究者がアルゼンチンに行って発掘作業も行い、とても力が入っています!」

あとは、海岸の砂ひとつかみの中に100匹もいるという1ミリ以下のいきもの「メイオベントス」にも注目してほしいですね。『ダーウィンが来た!』でも特集された注目のいきもので、小さいからこその微環境への適応という戦略を感じてもらえると思います。

砂ひとつかみの中に100種類もいるという1ミリ以下の生き物「メイオベントス」
メイオベントス ©国立科学博物館
特別展「いきもの超ワールド展 国立科学博物館×ダーウィンが来た!」総合監修・田島木綿子先生インタビュー!
こんな砂ひとつかみの中に1ミリ以下のいきもの「メイオベントス」が100匹もいるそう。「砂浜は目に見えないいきものだらけ」と田島先生

― クジラは昔はカバくらいの大きさでしたが、もともとは海のいきものが陸にあがって、そのあとまた海に戻っています。海の方が生きづらそうだと思うのですが、それはなぜでしょうか?

海が生きづらそうと感じるのは、人間側の考え方ですね。進化にはポジティブ説とネガティブ説があるんですが、自ら勝ち組になれる道を選んだ(ポジティブ)という説が今は支持されています。

たとえばキリンは競争に負けたからではなく、他のいきものが食べられない高い場所の草を食べているうちに首が長くなり、その結果として生き残り作成に成功したように、水辺にいたカバみたいな四つ足動物がエサ生物の獲得ために海に入っていった結果、こちらも生き残り作戦に成功できたのでしょう。進化とは遺伝子の突然変異が起こることが基本なので、それも重なり本格的な海への進出が可能になったのだろうと考えられています。

そして海という環境に適応するため、哺乳類としての基本構造(内臓の配置など)を持ちながらも外見を劇的に変化させました。陸上を歩くための足は不要となり、泳ぐための尾ビレやバランスをとるための背ビレといった魚と同じパーツをつくりあげ、水の抵抗を減らすために体毛も退化しました。

さらに、エコロケーション(超音波による探知能力)という特徴的な能力を備えてもいます。鯨類などは一見すると、哺乳類の基本型からは外れているように見えますが、それでも哺乳類なのです。そうした発見を観察すると、進化とは本当におもしろいと感じます。

もちろん適応できずに絶滅するいきものもいたはずですが、現在も数多くの海の哺乳類がいるということは、彼らは長い進化の過程で海という環境に適応し、生き延びてきたんですよね。

地球の歴史上もっとも大きい哺乳類(かつ最大の動物)「シロナガスクジラ」
現在生きているいきものの中で、もっとも大きい「シロナガスクジラ」は最大で33メートル、200トンにもおよぶ ©国立科学博物館
特別展「いきもの超ワールド展 国立科学博物館×ダーウィンが来た!」総合監修・田島木綿子先生インタビュー!
クジラへの進化が「おもしろすぎますよね」と楽しそうに語る田島先生。「クジラは他の動物と無駄に競争するよりも、楽にエサ生物を得るために海へ進出し、そこで巨大化していったと考えられています」

多すぎて怒られた(?)から
今回は一つひとつの展示を
しっかり見られる展示方法に
超豪華な音声ガイドとSPトーク!

― 先生のおっしゃるように「おもしろすぎ」ですね。そんなおもしろいいきものの展示数はどのくらいですか?

具体的な種数はまだ精査中ですが、展示数としては200〜250くらいをめざしています。以前の展示で400点以上出した際に、お客さんから「多すぎて1回では見きれない」と伺ったので(笑)、さらに展示方法を工夫すれば展示数が多少多くても、一つひとつの展示をしっかりと見ることができるので、そこはがんばりました。

展示の見せ方では、「ミズスマシ」の展示でLEDを使って水面を表現するなど、なるべく臨場感も出したいと思っています。楽しい反面、しっかり学べる「学び舎」のようなメリハリもつけています。展示会場全体をひとつの「ワールド」として、みなさんに体験してほしいですね。

― 総合監修として、チラシのデザインにも関わられたのですか?

デザインにはかなり意見を出しました。最初は脊椎動物ばかりだったので、昆虫やクラゲといった無脊椎動物も入れて、多様性を表現するようにしました。また、写真とイラストを混在することで、少し “ほわっ” とした優しい雰囲気を出すようにしました。

本展のオリジナルキャラクター『くじらじい』は良いネーミングですよね。特別展でも、標本・研究・映像の見どころをつなぎ、驚きポイントを紹介してくれます。

特別展「いきもの超ワールド展 国立科学博物館×ダーウィンが来た!」オリジナルキャラクターの「くじらじい」
「くじらじい」は『ダーウィンが来た!』のヒゲじいとコラボしたもので、標本・研究・映像の見どころや驚きポイントを紹介します!
特別展「いきもの超ワールド展 国立科学博物館×ダーウィンが来た!」総合監修・田島木綿子先生インタビュー!
インタビューをさせていただいたのは開催の2ヵ月半ほど前。展示数などの詳細はまだこれからの段階で、資料を見ながらていねいに答えてくださいました

― 音声ガイドも豪華ですね!

本展ナビゲーターの相葉雅紀さんとキャラクターの「くじらじい」、そして「ヒゲじい」が登場し、楽しい掛け合いで最新の研究成果をより深く案内してくれます。相葉雅紀さんは本格的にいきものに関する企画へ参戦してくれるようで、ご本人もとても楽しみにしていると聞いています。相葉さんの声に惹かれて足を運ぶファンの方も多いでしょうから、とても楽しみです。

そして、われわれ研究者のスペシャルトークもあります。私は専門の内臓や消化器の話を「マニアックで良い」と言っていただけたので、思う存分語っています(笑)。

特別展「いきもの超ワールド展 国立科学博物館×ダーウィンが来た!」のナビゲーターを務める相葉雅紀さん
特別展「いきもの超ワールド展 国立科学博物館×ダーウィンが来た!」のナビゲーターを務める相葉雅紀さん

海の王者クジラが歌うヒット曲
いきものが “生きる意味” とは?

― 先生の専門である海洋生物で、注目してほしいところはありますか?

イルカやクジラは海に住んでいて見た目も魚っぽいけれど、われわれと同じ哺乳類だということを知るのが、興味を持つきっかけになるのではないでしょうか。内臓の配置も人間とほぼ一緒なんですよね。

あと、ザトウクジラの歌にも流行があるという話もおもしろいですね。その年の “ヒット曲” に乗れないオスはメスにふりむいてもらえないという、非常にシビアな世界なんです。

人間社会では立場や世間体など、いきものの本質とは少し違う部分(複雑な悩みや自尊心など)を抱えて生きています。対していきものは、与えられた生存戦略を駆使して、ただひたすらに命をつなごうとします。迷いのないその姿からは学ぶことが多いですし、私たち人間も、もう少し肩の力を抜いて、生きることそのものにがむしゃらに突き進んでいいんじゃないかなと思うときがありますね。

― ミズダコが卵を守り続けて死んでしまうなど、自らの命をもって子孫を守るいきものはたくさんいますが、やはりそこまでして自分の遺伝子を残したい、というのがあるんですか?

いきものが “生きる意味” というのは、まさに “子孫を残すこと” で、それはもう強烈なまでにインプットされていて、それに実直に行動を起こしているように見えます。いや、本当にいきものってすごいなと思いますね。

特別展「いきもの超ワールド展 国立科学博物館×ダーウィンが来た!」総合監修・田島木綿子先生インタビュー!
「クジラやイルカはわれわれ人間よりも先に地上にいた大先輩。だから常にリスペクトがあります。人間が食物連鎖の頂点という構図から一歩下がって、人間もその食物連鎖のただの一員であり、いきものから学ぶところはたくさんあるんです」と田島先生

ミステリーサークルは誰がつくった?
人間のオスももっとがんばろう!

― 専門以外の分野で、驚いた生存戦略はありますか?

意外と知られていませんが魚にも舌があることや、哺乳類以外ではオスが献身的に育児をするケースが多いことには驚きました。あと「アマミホシゾラフグ」が奄美大島沖の海底につくる産卵床。あんなに小さいフグが卵への水の流れまで計算して、ひとりでミステリーサークルのような美しい模様をつくりあげることを知って、本当に感動しました。
※国立科学博物館の魚類学者 松浦啓一先生が「アマミホシゾラフグ」として2014年に新種登録(新種記載)

この「アマミホシゾラフグ」や、鳥類にもメスを呼び込む東屋をつくる種がいますが、一生懸命に準備をしても全然メスは来てくれないじゃないですか。そういう健気な姿を見ると、人間もまだまだがんばれるところがあるのではないだろうか、もっとがんばろう! と思わされますね(笑)

特別展「いきもの超ワールド展 国立科学博物館×ダーウィンが来た!」総合監修・田島木綿子先生インタビュー!
小さなフグ(アマミホシゾラフグ)がメスに振り向いてもらうために、たったひとりで美しいサークルをつくりあげる姿に「泣きそうなんですけど」と田島先生

― 『ダーウィンが来た!』とのコラボで「アマミホシゾラフグ」のミステリーサークルの映像も観られますが、『ダーウィンが来た!』についてはどのような印象をお持ちですか?

もちろん楽しく拝見しています。「アマミホシゾラフグ」の産卵床のように、現地に行かないと見られない光景を映像を通してみんなで見られることは素晴らしいことです。「百聞は一見にしかず」ですから、映像は欠かせません。

そして、撮影班が心血注いで記録する決定的瞬間は、われわれが博物館で標本をアーカイブするのと同じくらい重要です。もし絶滅してしまったら、その姿は映像の中にしか残らないわけですから、この番組の果たす役割は非常に大きいと感じています。

母の教えと意地で
切り開いた研究者の道
当時の選択は “正解” に

― 先生がこの道に進もうと思ったきっかけを教えてください。

母親が「女性も手に職を持つべき」という教育方針でした。動物が好きだった私に「獣医」という選択肢もあるよと、医者や弁護士よりは獣医がいいかなと直感的に選んだのがはじまりです。

獣医学部での学びは私にあっていて、牛や馬、犬、猫などの産業動物について学ぶ日々を送っていましたが、学部時代に訪れたカナダのバンクーバーで野生のオルカ(シャチ)に出会い、その姿に強く魅了されて海の哺乳類の世界で生きていくことを決心しました。

初めてイルカを解剖したのは大学を卒業して獣医師になってからでしたが、内臓の配置は大学で学んだ哺乳類とほぼ一緒でまったく違和感がありませんでした。その後、国立科学博物館の先代の先生が打ち上がったクジラたちを博物館の標本として未来に残す仕事をしていると知り、「私の進むべき道はこれしかない」と、迷わず門を叩きました。

当時、獣医は犬猫の病院に進むのが当たり前の時代で、同級生からは「野生動物の研究なんかして生きていけるのか」と散々言われましたが(笑)、4分の1くらいは意地でここまで踏ん張ってきました。最近ようやく同級生たちも「こういうことがやりたかったのか、なんかわかってきた」と、少しずつ理解してくれるようになりましたね。あの時、獣医を選択したのは正解だったなと思っています。

特別展「いきもの超ワールド展 国立科学博物館×ダーウィンが来た!」総合監修・田島木綿子先生インタビュー!
“好き” と「4分の1くらいは意地で踏ん張った」と田島先生。さらっとおっしゃっていましたが、相当な努力だったことは想像に難くありません。でも、研究者を目標にしている子どもたちはたくさんいるでしょうね

生きている個体から死体まで
うんこから見える海の未来

私の主な活動は “ストランディング” という、クジラやイルカなどの海の哺乳類が海岸に打ち上げられる現象が起きた場所に駆けつけて、その死体を調査・解剖することです。そしてそこから個体の基本情報はもちろん、生態や死因の解明(寄生虫の感染、ウイルスや細菌による病気、他の海洋生物との接触、人間活動の影響など)、海洋の汚染の状態などがわかります。これまで知られていなかった新種の発見につながることもあります。

最近はストランディングだけでなく、生きている個体から死んでいる個体までを紡ぐことをテーマに、三宅島のザトウクジラの “鼻水(噴気/ブロー)” を採取してDNAから血縁関係などを調べたり、土佐湾のクジラの “うんこ” を集めて海洋生態系への貢献を調べたりしています。

“うんこ” と言えば、今は下水管理が進んで海がきれいになりすぎたために栄養が足りず、アワビや真珠が育たないという問題が起きています。水の透明度が高い海をきれいと感じるのは人間だけだと思います。そういう海にいるいきものにとっては栄養不足の不自然な状態なのかもしれません。私たちの排泄物も他のいきものの糧になるという循環、私たちも生態系の一部なんだということをもっともっと広めていきたいのです。

特別展「いきもの超ワールド展 国立科学博物館×ダーウィンが来た!」総合監修・田島木綿子先生インタビュー!
「三重県の真珠漁師さんから『田島先生の言う通り、今の海では何もとれなくて本当に困っている』という切実な手紙をもらったことがあり、それを当時の環境大臣に伝えたこともあります

動物、昆虫、恐竜など
“好き” を続けるアドバイス

― 田島先生のような研究者をめざす子どもたちへのアドバイスをお願いします。

目標があるなら、嫌いな算数や理科などの勉強も “そこへ行くための手段” と割り切ってチャレンジするしかないですね。「なんでこんなことを‥‥」と思っていたことが、後につながったり役に立つことはよくあります。

将来、それでお金を稼ぐことができるか不安になることもあるかもしれませんが、まずは自分の “やりたい!” という気持ちに素直になって、突き進んでほしいですね。研究者の多くは、子どもの頃に石をひっくり返して虫を探していた、そんな “好き” の延長線上にいます。私も結局は好きの延長線に今があるので、踏ん張ってきて良かったです。

―最後に、特別展「いきもの超ワールド展 国立科学博物館×ダーウィンが来た!」を楽しみにされているみなさんへメッセージをお願いします。

『ダーウィンが来た!』の素晴らしい映像と、国立科学博物館の標本が融合した、かつてない展示になっています。標本と映像で学ぶ生き残り術を通じて、驚きや感動を体験してほしいです。知れば知るほどおもしろくなる世界なので、ぜひ、“いきものワールド” にどっぷり浸かってください!

特別展「いきもの超ワールド展 国立科学博物館×ダーウィンが来た!」は、2026年7月11日(土)〜10月12日(月・祝)まで開催!

特別展「いきもの超ワールド展 国立科学博物館×ダーウィンが来た!」総合監修・田島木綿子先生インタビュー!
夏休みは猛暑が予想されますが、博物館は空調も効いていますし、最高の「学びの場」です。ぜひ、ご家族で足を運んでください!
特別展「いきもの超ワールド展 国立科学博物館×ダーウィンが来た!」

2026年7月11日(土)〜10月12日(月・祝)まで国立科学博物館で開催!
特別展「いきもの超ワールド展 国立科学博物館×ダーウィンが来た!」

地球誕生から現代に至るまで、地球環境は目まぐるしく変化しています。この多様で変化に富んだ環境に適応したいきものが次世代を育み、長い生命進化の歴史を築いてきました。

本展では、そうしたいきものの適応進化や生存戦略、それにともない獲得された形質や機能を「動物」を中心に幅広く紹介します。そして、NHKの自然番組『ダーウィンが来た!』との共同企画により、国立科学博物館が所蔵する標本・資料、研究成果、さらにはNHKが撮影してきた多くの映像を駆使し、動物たちの環境適応や生存戦略などを項目ごとに展開します。

また、国立科学博物館の脊椎動物・無脊椎動物・昆虫そして古生物の研究者の監修のもと、驚くべき「いきものの生存戦略」の世界をわかりやすく紹介します。
https://ikimonoworld.jp
※本展で紹介する「いきもの」は動物とします。

田島木綿子(たじま ゆうこ)
国立科学博物館 動物研究部 脊椎動物研究グループ 研究主幹。専門分野は海棲哺乳類の形態学、ストランディング(座礁・漂着)調査。特に「内臓」や「消化器」の構造に詳しく、解剖を通じて生態や死因、海洋汚染の状態などを解明している。

インタビュー後記 〜いきものの姿は、子どもたちに“好き” を貫く勇気を与えてくれる〜

インタビュー中、田島先生の口からは「すごい!」「おもしろすぎる!」「泣きそう」という言葉が何度も飛び出しました。第一線で活躍するトップ研究者でありながら、いきものの生存戦略や進化の不思議に対して、誰よりも純粋に感動し、常に深いリスペクトを捧げている姿がとても印象的でした。

私たち人間はつい、自分たちを「特別な存在」として自然の上に置きがちです。しかし、いきものたちの迷いのない生き様や多様性に触れると、人間もまた大きな生態系のほんの一部にすぎないことに気づかされます。

先生の “田島節” と熱い想いが全開の「いきもの超ワールド展」。ただひたすらに命をつなごうとするいきものたちの健気な姿は、大人の凝り固まった肩の力を抜き、子どもたちの “好き” を貫く勇気を与えてくれるはず。この夏、子どもたちと一緒に展示室に足を踏み入れれば、これまで見ていた世界がガラリと変わるような、最高に刺激的な「心のジグソーパズル」のピースが見つかるはずです!

キッズイベント 高木秀明