インタビュー

第9回 坪田信貴先生×さやかさん

制服姿のギャルがこちらを睨んでいる表紙が印象的かつ、子どもの勉強で悩んでいる親にとっては勇気づけられるタイトルで話題の書籍『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』。発行部数42万部を突破し(2014年7月現在)、まだまだその数字を伸ばし続けていることからも、関心の高さが伺えます。これは勝手な親の都合ですが、特別なことをしなくても子どもが勉強ができるというのは、とっても楽。おそらく、夫婦喧嘩の回数も半減するでしょう。自らの過去を棚に上げての発言ですが、確かにそう実感します。もちろん、学校の成績、テストの点数だけがすべてではありませんが、それが指標となってしまうことがあることは確か。どうすれば子どもは勉強にやる気を出すのか、子どもへの勉強の教え方などを、著書であり青藍義塾の塾長である坪田信貴先生、そしてかつてビリギャルだったさやかさんに聞いた。(インタビュー:2014年5月13日(火) / TEXT:高木秀明 PHOTO:水町和昭)

子どもは全然ダメじゃない。ダメなのは “指導者”

ー とても目立つ表紙ですね。そしてこの『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』というタイトルには、多くの親御さんは引き込まれてしまうと思います。成功物語をベースに、それぞれの教科を学ぶときのコツなども書いてあり、参考書としても使えますね。坪田先生は塾のほか IT企業の経営もしていますが、子どもも大人も、モチベーションの上げ方というのは同じですか?

坪田先生:ほとんど同じですね。人によって多少やり方は変わりますが、それが生徒だから、部下だからという違いで変わることはありません。基本的には子どもも大人も「ほめてのばす」です。まずは「できているところを認める」、もしできていない状態であったとしても、やってみてできるようになれば、「それができるようになったことを認める」できるようになったところまででもいいから認めるということを行なっています。

書籍『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』坪田信貴先生×さやかさんインタビュー

学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話[文庫特別版] (角川文庫)

ー 書籍に「ダメな人間などいません。ダメな指導者がいるだけなのです」と書かれていますね。

坪田先生:先生だけではなく、親も上司も経営者も、誰にでも言えることだと思っています。これは自分が良い先生ということではなく、生徒の成績が伸びない、部下の業績が伸びないというとき、それは誰の責任かと言えば、僕です。自戒も込めて、常に心に留めている言葉なんです。

ー 成績が伸びないときは、やり方を変えるんですか?

坪田先生:そうですね。それまでにやっていた接し方、指示していた内容が間違えているはずなので、じゃあ今度はこうしてみようと、お互いに話し合ってやり方を変えてみる。それで改善されれば、「あっ、やっぱり指導の問題だったのか」となる。ほとんどそうですよね。

ー やり方を変えるという試行錯誤は、常に行なっているのですか?

坪田先生:常にやっていますね。今までの経験があるので、子どもの指導に関しては、このタイプにはこのやり方かな、というのは、ほぼ一発でわかります。ただその後の具体的な指示などについては、いろいろと考えますよ。

子どもは性格で分けると9パターンほどあり、それぞれにやり方がありますが、大切なのはどのパターンにも共通して「子どもに対する無条件の期待」が必要ということです。これは「ピグマリオン効果(※1)」と言われるもので、「この子は絶対に伸びる、伸びないとしたらこちら(指導側)の問題で、現状その子が伸びていないとしたら、間違えたやり方を習慣化してしまっているんだろうな」ということを、指導側が意識することが大切ですね。

また「子どもを“ダイヤの原石”と思わない」ということも大切です。この表現をすると誤解されてしまうことが多いのですが、親の望む原石とは思わないということです。子どもは何かしらの原石ではあります。たとえばさやかちゃんは、好きな人に書いた手紙を見せてくれたことがあるのですが、「この子、文才あるんじゃない?」と思った。別の子はちょっとしたアイデアとか発想がおもしろくて、ソリューションを提供するのが得意だから起業家になったらどうかなとか、でも文才はあまり感じられなかったり。子どもにはそれぞれ“キラッ”と光るところがあって、でもそれは必ずしも親が期待していることと同じではありません。でもその光っているところを見つけて、そこを中心に伸ばしたり、そこは子どもをほめるポイントですから、見逃さないようにしたいですね。

※1 ピグマリオン効果:教育心理学における心理的行動のひとつで、教師の期待によって学習者の成績が向上すること。人は期待された通りに成果を出す傾向があるということ。

「ちゃんと勉強しろ」ってどういう意味? 具体的に行動を指示することが大切

書籍『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』坪田信貴先生×さやかさんインタビュー

ー 親はよく「やればできる」という励ましの言葉を子どもにかけます。これはピグマリオン効果とは違うのでしょうか?

坪田先生:違いますし、「やればできる」というのはよくないですね。これを言い続けていると、ニートになりやすい。なぜかと言うと、「やればできる」は、まだやっていない状態ですよね。本来、まずはやってみることの方が重要なのに、「やればできる」というと、もしやってできなかったら、「やったけどできなかったね」と言われてしまう可能性が出てくる。つまりそれは、その人の才能や能力を否定することになってしまうんです。だからやらないでいた方が、「やればできる」と言い続けてもらえている状態のままでいることができる。だからやらない。たとえばずっとゲームをしていて、テストができなかった。でもそれは当たり前。テスト勉強をしていないから。でも「やればできる」とずっと期待してもらえているんです。だから「やればできる」というのは言わない方がいい。むしろ、何をすればいいかを、ひとつひとつ丁寧に教えてあげるんです。

学校から家に帰ったら、① まずイスに座る、イスに座った状態で、② ランドセルを下ろす、次に③ ランドセルの蓋を開けてテキストを机の上に出す、と行動を教えてあげて、まずはこの3つのポイントをやってみようと。子どもが「ただいま」って帰ってきたら「今日何するんだっけ?」と。そしたら子どもが「まずは座って」と、「そうそうそう、素晴らしい、ちゃんとできたよね」と、親はできたことを認めてほめる。次、何する? 「遊ぶ!」「惜しい!」ランドセルを下ろして、教科書と筆箱を机の上に出して‥‥と、ひとつひとつの行動を指示することで、必要な行動ができるようになる。“やったらできた”ということを繰り返した方がいいと思います。それをざっくり「とにかく家に着いたら勉強しなさい」と言われても、「後で」とか、「とりあえずソファに座ろう」とか、親の言う「勉強しなさい」と、子どもが理解する「勉強しなさい」の認識はズレていくんです。そうならないためには、ひとつひとつ指示を出すことが必要なんです。

「わかった?」は、言ってはいけないアホな質問

書籍『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』坪田信貴先生×さやかさんインタビュー

僕は塾の先生(部下の講師たち)に、「ちゃんと予習しろ」「ちゃんと復習しろ」「ちゃんと勉強しろ」、そして「わかった?」という言葉はもっともアホでくだらない質問だから、絶対に言うなと言っています。つまり、「ちゃんと予習しろ」というのは、3回書くのか、1回音読するのか、問題を2問解くのか、どういうことを指しているのかわかりません。経験値や教科によってやるべきことは全然違うじゃないですか。もっと具体的に行動を指示することが大切なんです。

それに、「わかった?」と子どもに聞いて、「わかりません」と答えるのは、「私はバカです」と言っていることと同じなんです。だから子どもは、わかってなくてもわかったと答えてしまう。「わかったかどうか」は教えられている方(子ども)ではなく、指導側が判断することなんです。たとえばある問題の解き方を教えたら、もう1問同じような問題を解かせてみて、それによってその子どもがわかったかどうかを、指導する側が判断します。問題が解けたら「できたね、素晴らしいね」とほめる。できれば本人も自信になる。逆にできなくても、途中まででもできていれば、それは成長の証ですから、まずはそこまでを認める。そしてもう一度教えてあげる。できなければ本人もくやしいし、できるようになろう、がんばろうという気に、だんだんなってくると思います。

さやかちゃんとの勉強で、昨日覚えた英単語を忘れていないかチェックしているとき、それに関連する類義語などの質問をしていました。最初は「はぁ〜、わからない‥‥」という返事だったのが、だんだんと「絶対に聞かれると思ったから調べてきた」と言って、どう先回りしてやろうかという遊びみたいになっていきました。遊びなら楽しいし、そうすると出題者の意図みたいなものを探ってやろうとか、だんだんと広がりが出てきます。自ら勉強のやり方を見つけていくんです。こうなると、いちいち行動を教えてあげなくても、自分で勉強ができるようになりますね。

ほめられなかったら、やんねーよ!

書籍『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』坪田信貴先生×さやかさんインタビュー

ー さやかさんは、そういう先回りをする考えができるようになったのは、何がきっかけですか?

さやかさん:先生とのやりとりが楽しかったのもあるし、「ほめられたい」という気持ちはありましたね。意外と子どもってほめられる機会がないんじゃないかなと思うんですよね。でも先生は、あからさまに、できたらできたぶんだけほめてくれたので、「明日はもっとほめられるように頑張ろう!」と思うんじゃないかなと思います。私もそうでした。

ー 大人になっても、ほめられると嬉しいですからね。

さやかさん:ほめられなかったら、やんねーよ! 絶対やんねー、みたいな(笑)

坪田先生:(笑)。今のさやかちゃんの言葉は表象的に聞こえるかもしれないけど、実はとても本質的なことを言っていると思います。教室では1対40、家ではお母さんが家事をやっていて、お父さんは仕事で疲れてずっとテレビを観ていたりして、子どもが「今日ね」と話かけても生返事をしてしまったり、それは夫婦間でも問題になることですが、でも子どもが唯一、1対1で徹底的に見てもらえる瞬間というのがあって、それは、怒られているときなんですね。

怒られるときって、1対1で30分でも徹底的に怒られるじゃないですか。逆に1対1で30分間徹底的にほめられることってないですよね。これ、おかしくないですか? むしろ30分間徹底的にほめるということがあってもいいと思うんですよ。さやかちゃんの言った「ほめられないとやんねーよ」というのは、怒られることがあまりにも多すぎて、見られているのは悪いところばかり。そうじゃなくて、もっと良いところを見てほしい、ということでもある。世の中的にも良いところを見るという環境(社会)になれば、もっと自発的に良いことをやろうということになると思うんですよね。その意味で、おもしろい発言だったな。「ほめられないとやんねーよ」だけ切り取られちゃうと違う意味になっちゃうけど。

書籍『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』坪田信貴先生プロフィール

坪田 信貴(つぼた のぶたか)

株式会社青藍義塾 代表取締役 塾長。学校法人大浦学園 理事長。自ら生徒を指導する教育者でありながら、同時にIT企業など複数社を創業した起業家であり、それらの経営者でもある。その活動の場は日米にまたがり、ネイティブ並みの英会話力を誇る。TOEICは990点(満点)。これまでに1,000人以上の子どもたちを個別指導し、心理学を駆使した学習指導法により、生徒の偏差値を短期間で急激に上げることで定評がある。教え子には、「高3の夏まで文系クラスだったが、その後、理系に転向して国立大学医学部に合格した女の子」「高3時に学年で100番以下だったが、東京大学に合格した男の子」など、異例のエピソードを持つ者多数。

書籍『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』さやかさんインタビュープロフィール

さやかさん

中学、高校で学年ビリを経験し、高2の夏に小学4年レベルの学力しかなかった元ギャル。素行不良を理由に何度も停学になり、学校の校長に「人間のクズ」と呼ばれたことも。高2の夏の坪田先生との出会いを機に、日本最難関レベルの私大、慶應義塾大学の現役合格を目指すことになる。結果、1年で偏差値を40上げて、複数の難関大学のほか、慶應義塾大学に現役で合格を果たす。現在は、ウェディングプランナーとして活躍する。